結果


(1)因子分析結果
 

@ まず、先行研究に基づいて、「気分形容詞尺度」を主観的覚醒度(エネルギー覚醒、緊張覚醒)と快感度にわけ、それぞれで因子分析を行った。
  主観的覚醒度については、因子分析(主因子法、バリマックス回転)を行った。その結果、質問項目「4.のっている」の因子負荷量が因子1・2にまたがっており、また「10.さえた」の因子負荷量は因子1・2ともに値が小さかったので、この2項目は因子分析の結果から除外した。他の項目は先行研究通り2つの因子に別れたので、第1因子を「エネルギー覚醒」、第2因子を「緊張覚醒」とする。下位尺度の内的整合性を検討するため、クロンバックのα係数を算出したところ、エネルギー覚醒は、α=.879、緊張覚醒は、α=.868という高い数値を得た。 (*は逆転項目)

A 快感度については、逆転項目である9・12の数値を逆転させ、先行研究に基づき、主成分分析を行った。どの項目も高い負荷量を示したので、これも先行研究通り「快感度」とする。下位尺度の内的整合性を検討するため、クロンバックのα係数を算出したところ、α=.864という高い数値を得た。

B 書くことによって何を感じるか?尺度について、因子分析(主因子法、プロマックス回転)を行い、固有値・寄与率・解釈可能性・スクリー・プロットに基づき総合的に判断した結果、以下の4因子を採用した。そこで、第1因子から「感情の開放因子」、第2因子を「客観視・明確化因子」、第3因子を「新しい見方因子」、第4因子を「想像による消耗因子」と命名した。下位尺度の内的整合性を検討するため、クロンバックのα係数を算出したところ、感情の開放因子はα=.860、客観視・明確化因子は、α=.713、新しい見方因子はα=.715という高い数値を得た。想像による消耗因子については、α=.546であり、低い値ではあるが、項目数を考慮すれば一定の信頼性を有するものと考えられる。


(2)実験群A・B・Cにおける書記前後の気分の変化に関する結果
 実験群A・B・Cそれぞれの書記方法の前後の気分の差を明らかにするため、エネルギー覚醒・緊張覚醒・快感度について、(2:事前・事後)×(3:実験群A・B・C)の2要因分散分析(混合計画)を行った。

@エネルギー覚醒について
 2要因分散分析の結果、事前事後の主効果(F(1,89)=55.29,p<.001)、実験群の主効果(F(2,89)=3.20,p<.05)、交互作用(F(2,89)=9.36,p<.001)ともに有意であった。
 Tukeyの多重比較の結果、事前テストについては、どの群間にも有意な差は見られなかったが、事後テストにおいては、実験群Aと実験群B間、また実験群Aと実験群C間が0.1%水準で有意であった。ただし、実験群Bと実験群C間は、有意ではなかった。

A緊張覚醒について
 2要因分散分析の結果、事前事後の主効果(F(1,89)=97.99,p<.001)、実験群の主効果(F(2,89)=7.73,p<.001)、交互作用(F(2,89)=8.76,p<.001)ともに有意であった。
 Tukeyの多重比較の結果、事前テストについては、どの群間にも有意な差は見られなかったが、事後テストにおいては、実験群Aと実験群C間が0.1%水準で有意であった。また実験群Bと実験群C間が5%水準で有意であった。ただし、実験群Aと実験群B間は、有意ではなかった。

B快感度について
 2要因分散分析の結果、事前事後の主効果(F(1,89)=79.96,p<.001)、実験群の主効果(F(2,89)=10.27,p<.001)、交互作用(F(2,89)=11.77,p<.001)ともに有意であった。
 Tukeyの多重比較の結果、事前テストについては、どの群間にも有意な差は見られなかったが、事後テストにおいては、実験群Aと実験群B間、実験群Aと実験群C間、そして実験群Bと実験群C間が、全て0.1%水準で有意であった。


(3)エゴグラムIFC・UAの得点と気分の変化との関連についての結果
 MIE(ミエ)自己志向・他者志向エゴグラム(西川,1995)のIFC項目とUA項目について、それぞれ得点の平均値を基準とし、それより高い得点群をH群、低い得点群をL群とした。IFCについては、平均値が10.38点だったので、11点以上をIFC・H群、10以下をIFC・L群、UAについては、平均値が8.86点だったので、9点以上をUA・H群、8点以下をUA・L群とした。
 ここでは、実験群A・B・C×IFCのH・L群(=6群)と実験群A・B・C×UAのH・L群(=6群)において、書記前後の気分の変化についての関連を明らかにするため、エネルギー覚醒・緊張覚醒・快感度について、(2:事前・事後)×(6:実験群A・B・Cのエゴグラム得点H・L群)の2要因分散分析(混合計画)を行った。

@IFC得点とエネルギー覚醒について
 各群の人数は、実験群A・H群−13人、実験群A・L群−20人、実験群B・H群−17人、実験群B・L群−12人、実験群C・H群−20人、実験群C・L群−10人の通りである。
 2要因分散分析の結果、事前事後間の主効果(F(1,86)=53.15,p<.001)、交互作用(F(5,86)=3.51,p<.01)ともに有意であったが、実験群・HL群の主効果(F(5,86)=2.28,n.s.)は有意でなかった。

A IFC得点と緊張覚醒について
 各群の人数は、実験群A・H群−14人、実験群A・L群−20人、実験群B・H群−17人、実験群B・L群−13人、実験群C・H群−20人、実験群C・L群−10人の通りである。
 2要因分散分析の結果、事前事後の主効果(F(1,88)=128.60,p<.001)、実験群・HL群の主効果(F(5,88)=9.22,p<.001)、交互作用(F(5,88)=3.45,p<.01)ともに有意であった。
 Tukeyの多重比較の結果、実験群A・H群と実験群B・H群、実験群B・L群、実験群C・H群、実験群C・L群の間が0.1%水準で有意であった。また、実験群A・L群と実験群C・H群間が1%水準で有意であった。他の群間は、どれも有意ではなかった。

BIFC得点と快感度について
 各群の人数は、実験群A・H群−14人、実験群A・L群−20人、実験群B・H群−17人、実験群B・L群−13人、実験群C・H群−20人、実験群C・L群−10人の通りである。
 2要因分散分析の結果、事前事後の主効果(F(1,88)=76.44,p<.001)、実験群・HL群の主効果(F(5,88)=4.59,p<.001)、交互作用(F(5,88)=4.70,p<.001)ともに有意であった。
 Tukeyの多重比較の結果、実験群A・H群と実験群C・H群間が0.1%水準で有意であった。また、実験群A・L群と実験群C・H群間が1%水準で有意であった。

CUA得点とエネルギー覚醒について
 各群の人数は、実験群A・H群−18人、実験群A・L群−15人、実験群B・H群−15人、実験群B・L群−14人、実験群C・H群−18人、実験群C・L群−12人の通りである。
 2要因分散分析の結果、事前事後の主効果(F(1,86)=60.45,p<.001)、実験群・HL群の主効果(F(5,86)=2.55,p<.05)、交互作用(F(5,86)=4.26,p<.01)、ともに有意であった。
 Tukeyの多重比較の結果、実験群A・L群と実験群C・H群間に有意傾向が見られたが、その他は、どの群間も有意ではなかった。

DUA得点と緊張覚醒について
 各群の人数は、実験群A・H群−18人、実験群A・L群−16人、実験群B・H群−16人、実験群B・L群−14人、実験群C・H群−18人、実験群C・L群−12人の通りである。
 2要因分散分析の結果、事前事後の主効果(F(1,88)=141.75,p<.001)、実験群・HL群の主効果(F(5,88)=8.17,p<.001)、交互作用(F(5,88)=2.86,p<.05)ともに有意であった。
 Tukeyの多重比較の結果、実験群A・H群と実験群C・H群間は5%水準で、実験群A・H群と実験群C・L群間、実験群A・L群と実験群B・H群、実験群B・L群間は1%水準で、実験群A・L群と実験群C・H群、実験群C・L群間は0.1%水準で、それぞれ有意であった。

EUA得点と快感度について
 各群の人数は、実験群A・H群−18人、実験群A・L群−16人、実験群B・H群−16人、実験群B・L群−14人、実験群C・H群−18人、実験群C・L群−12人の通りである。
 2要因分散分析の結果、事前事後の主効果(F(1,88)=89.44,p<.001)、実験群・HL群の主効果(F(5,88)=4.33,p<.001)、交互作用(F(5,88)=6.18,p<.001)ともに有意であった。
 Tukeyの多重比較の結果、実験群A・H群と実験群C・H群間は5%水準で、実験群A・L群と実験群C・H群間は1%水準で、それぞれ有意であった。


(4)実験群A・B・Cと「書くことによって何を感じるか?」に関する結果
 実験群A・B・Cにおいて、「書くことによって何を感じるか?」にどのような差があるかを明らかにするため、それぞれ4つの因子ごとに、1要因3水準の分散分析を行った。
 その結果、感情の開放因子(F(2,90)=2.39,p<.1)には有意傾向が見られたが、客観視・明確化因子(F(2,91)=.539,n.s.)と新しい見方因子(F(2,91)=1.45,n.s.)は、有意ではなかった。また、想像による消耗因子(F(2,90)=5.95,p<.01)は、有意であった。
 そこで、感情の開放因子と想像による消耗因子について、Tukeyの多重比較を行ったところ、感情の開放因子については、実験群Aと実験群Bに有意傾向が見られ、また想像による消耗因子については、実験群Aと実験群Cが有意であり、実験群Bと実験群Cには有意傾向が見られた。


(5)自由記述
 被験者94名中、31名が自由記述欄に「書く」行為をしてみて、感じたことや思ったことを書いてくれていたので、以下にまとめた。
 ただし、個人的な悩みに関わる具体的な部分やこの書記に対する感想でないものなどは、事前に省いてある。

「感情の開放」「スッキリ」
・「私も、書くことで自分の気持ちを整理すること、よくあります。自分にとってはなくてはならない作業、という感じがします。ただ、結構時間と気力を使う作業なので、忙しい時はやりたくてもできなかったりもします。この調査をもらった時、いろんなことで頭がぐちゃぐちゃしていたので、書いてスッキリしました☆書くことで、今の自分を見つめたり、今後の展望をしていく、というのが、「コーチング」の技法と似ているな、とも思いました。」(実験群A・女)
・「顔を描いてグチ(?)を書いたらスッキリしました。」(実験群B・女)
・「ただアンケート書いただけだけど、何となく心がすっきりしました。たのしかったです。」(実験群A・女)
・「自分の事はあまり友達に話したくない私なのですが、本当はずっと怒りや気持ちを言いたかった。こういう形で発散させてもらえてよかった。ありがとです。」(実験群A・女)
・「自分のすべきことはわかっていたからこそ、ぐち(悩み)のはき出し口がなかったので書くことですっきりした。でもけっきょく(中略)解決はできなかった。でも紙面を通して、誰かにきいてもらえたということは、ただ一人で書くのとは違うすっきり感が得られたと思う。」(実験群C・女)
・「(きのう悩みが新しく増えたので)まだまだ頭がごちゃごちゃしていたので書くことで少しスッキリしました☆」(実験群C・女)
・「悩んでたことを書き出したらなんだかスッキリしました。心がモヤモヤして悩んだら今回みたいに思ってることすべてを書き出すといいのかもしれないと思いました。今度悩んだりしたときは思いっきり悩みを書き出してみて客観的に自分を見てみようと思います。」(実験群A・女)
・「書いてみたら、書く前よりも気持ちのもち用が楽になった気がしました。」(実験群A・女)

「客観視」「明確化」「反省」
・「(中略)この調査で悩みを自分で書いてみて、たしかにあんまり考えたくないことを、あらためて字にするのは少しストレスだったけど、ほんの少しは、「自分の悩みはこうなんだ」と思える部分もあって、セラピーとかもこんな感じなのかな?って勝手に思いました。」(実験群A・女)
・「だいたいは普段感じていることをそのまま書いたが、改めて書き出してみるとこのままではやばいぞと思った。今日からがんばります。」(実験群B・女)
・「自分が書きだしたことを手元に残したくなりました。自分はこうしたいんだ、っていうのが具体的にできたから。今まで思っていても書くことはなかったので。もう少し、生活見直します。」(実験群C・女)
・「私は、中心では同じことで悩んでいるようだと分かった。」(実験群B・女)
・「たいして悩みなんてないなぁと思った。」(実験群B・男)
・「自分はなんだか幸せに過ごしている人間なのだなぁと思いました。」(実験群C・女)
・「自分て面白くないなぁと思いました。結構想像力がないことに気づきました。」(実験群C・女)
・「いろんなことを考えることができました。」(実験群A・女)
・「文章に自分の考えを書きあらわすことは頭で考えるだけより自分の考えが整理できると思った。」(実験群A・女)
・「このままじゃまずかった自分の行動に終止符がうてた気がする。だからこのアンケートはよかった。」(実験群B・女)
・「何か、悪かったところが少し分かった気がした。」(実験群B・女)
・「いざ考えてみると結構気にしていたんだと思った。少しは忘れていたと思ったのに…。その時その時の心理状態で結果もころころ変わっていくんだろうなぁ…。」(実験群A・女)
・「Bを書いているとき、日記みたいだと思いました。普段でもいらいらしたりうれしかったりするとよく日記を書いているのですが、書いた後はとても気分がよくなることが多いです。うれしい気持ちや楽しい気持ちは大きくなるし、いらいらした気持ちは書いているうちにおさまるような気がします。文字に書き出すことですごく冷静に客観的になれるように思います。」(実験群A・女)

「楽しい」「おもしろい」
・「絵を書くの、楽しかったです。今までにやったどのアンケートの形とも違っててたのしめました。こんな感じのアンケートならみんな楽しくできると思います。」(実験群C・女)
・「楽しかったです!!今までにない感じのアンケートで。」(実験群C・女)
・「似たようなものを受けたことがあるけど、こっちの方がより想像(創造)的で受ける側としてもおもしろかったです。」(実験群C・女)
・「講義できいた「ミラクルクエスチョン」に似てるなぁと思いました。書いていて楽しかったし、わくわくしてきました。時間はかかったけど、アンケートに答えてよかったです。」(実験群C・女)
・「自分が悩んでいることは常に頭にあるんだけど、実際に字に書き出してみると、どんどん書けておもしろかった。」(実験群A・女)
・「もぞうしのでかいやつに、よく似たことを書いて確認するのを自分が迷ったときの指針としているので、特にまあたらしいということはなかったが、なかなか興味深いものであった。」(実験群C・男)
・「こういう風に自分を考えたことはなかったので、少し変わっていておもしろかった。」(実験群C・男)

「ネガティブ」
・「悩みを考えると、逆に自分の悩みの多さに気づかされて不安感が増します。できたら悩みについてはあまり考えたくないですね。楽しいことばかり考えて生きていきたい。」(実験群A・男)
・「あまり自分の悩みなどを人に言ったりするのは好きじゃないので少し嫌でした。いろんな事をおもいだしてしまって、どうすればいいか分からなくなりました。また考えようとおもいます。」(実験群C・女)

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