・・・問題と目的・・・



1.インターネットの普及


2.インターネットコミュニケーションの特徴


3.インターネット利用に関する先行研究


4.対面における自己開示・ソーシャルサポートについて


5.インターネット利用におけるメディア意識


6.目的




































1.インターネットの普及

インターネットの利用者数はここ数年増大の一途を辿っている。

平成17年度版の情報通信白書によればインターネット利用人口は7,948万人(対前年比2.8%増)と推計されており、人口普及率も62.3%と平成15年末(60.6%)と比べてもなお増加傾向を見せている。

パソコンによるインターネット利用についても総じて高い満足度が得られており、また同時に様々なコミュニケーションツール(メール、掲示板、チャット、など)が使用されるようになってきている。






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対面のコミュニケーションと、インターネットで行われるコミュニケーションの違いは多々あげられる。大きな特徴をあげるとすると、以下の3つが言えるだろう。


まず1つめに匿名であることがあげられる。
インターネット上では、本名を隠す事が容易であり、多くの人々が本名とは違う仮の名前(ハンドルネーム、ユーザーネームなど)を所持している。

仮に本名を名乗っていたとしても、本人の特定は難しく匿名性が高いといえるだろう。
なおかつ、インターネット上ではある相互作用から抜け出して別の相互作用場面へ移る事が対面の場合よりも遥かに容易であることから、発言に対する責任が対面に比べて軽く認識される事が多い。


2つめに、対人魅力や関係形成の重要な決定要因である身体的外見が伝達されない点があげられる。

対面のコミュニケーションの場合、身体的外見は第一印象を決める決定的な要因であるが、インターネット上では出会ったばかりの相手の身体的外見を知る事は殆ど無い。
それにより、インターネット上では、言語的メッセージに込められる意見・主張に基づいた自他の判断に基づいた自他の判断に注目が向けられやすく、内面性を問題にしやすい。


最後に、選択的自己開示ができる点があげられる。

自己開示は、親密な関係を築く上で重要だという事は対面コミュニケーションの研究で実証されている。
その自己開示が、インターネットコミュニケーションにおいては、自分の好きな時間、好きな場面でコミュニケーションに従事することができ、なおかつ必要とする、伝えたい自分の特徴のみを伝えることができる。
部分的ではあるものの、印象操作がしやすいといえるだろう。

また、匿名性が働く事によって、対面では伝えづらいような悩みや相談を、対面に比べれば相手からの反応に気兼ねをする事無く気軽に開示できるという特徴がある。

(自己開示とは何か → 問題と目的4へ





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3.インターネット利用に関する先行研究


インターネットコミュニケーションに関する研究は近年盛んに行われてきた。

その中でも、初期に行われたインターネットコミュケーションに関する研究においては、インターネット利用に対する悪影響について論ぜられる事が多かった。

Sproull, L., & Kiesler, S.(1993)はオンライン上の集団形成実験を行い、コンピューター上のメッセージに実名を公表する群と、匿名でやり取りする群を設けた。
その結果、相手に対する敵対発言を比較したところ、匿名群における敵対発言の数は実名群の六倍以上となった。

また、Kraut et al.(1998)はインターネット利用に関する縦断的な調査を行い、その結果インターネットコミュニケーションの利用によって孤独感が増し、社会的関与が減り、抑うつ症状が増す、というネガティブな結果を得た。
本来コミュニケーションを行う事は孤独感を減少させ、社会的関与を増加させる物であるのに対し、インターネット利用では逆の結果が出る。
この説は『インターネットパラドクス』と呼ばれ多くの論争を生んだ。

後に、この『インターネットパラドクス』に関しては、Kraut et al.(2002)が追跡調査を行い、その結果インターネットが社会的関与と心理的幸福にポジティブな効果を持つことを明らかにしたが、このようなネガティブな研究成果が広く報じられてしまった為、インターネットを利用したコミュニケーションは、対面に比べてネガティブであるようなイメージが一般に受け入れられてしまった。




しかし、研究が進むにつれて、ポジティブな側面や実際のコミュニケーション内容に焦点をあてた研究も多く行われるようになってきた。


笠木ら(2003)は同一の被験者グループにCMC(Computer-Mediated Communication)・対面の両条件で議論を行わせる研究を行った。
その結果、対面場面の方が他者へ親しみやすさを感じるものの、対面条件では短い返答が多いのに対して、CMC条件では自己開示などの深い内容を含んだ返事が多くみられた。






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4.対面における自己開示・ソーシャルサポートについて


自己開示とは、ある人が他の人に対して、自分の事(考え、気持ち、経験など)を話す事を言う。

自己開示をする事によって開示者は親しい人間関係を築く事ができ、またそれと同時に社会的確証を得ることや、情報を選択的に相手に提示することによって印象のコントロールを行う事もできると考えられる

また、自己開示を行う事はストレスの改善にも繋がると考えられている。

大学生の新入生、在校生、仕事についている成人を対象に「トラウマの告白と疾病の関係」について調べた研究がある。
(a)トラウマ経験なし(b)トラウマ経験あり−打ち明けた(c)トラウマ経験あり−打ち明けないの三群に分けられた。
全体的な結果として、(c)が身体的疾患や精神的苦痛につながる場合がもっとも多かった。この調査結果は親しい友人の数などには影響されていない。
よって、開示をしないことが不健康の原因となっているものと言えるだろう。

ただし自己開示をより多くする事が、どんな場合でもポジティブな結果を招くとは言えず、関係が浅いうちの深い自己開示は開示対象に対してむしろ否定的な印象をもたれやすい。

また、開示を行う事への不安、恐怖といった感情は開示につきものである。自己開示に必要なのは相手との関係を見極めた上で、適切な内容を開示することであると考えられている。




ソーシャルサポートとは家族や友人など、ある個人を取り巻く様々な人々から与えられる有形・無形の支援をさす。

これによって人は、自分がケアされ愛されている、あるいは尊重され価値を与えられているという事を感じる。

久田(1987)においては、「ソーシャルサポート、すなわちある人を取り巻く重要な他者から得られるさまざまな形の援助は、その人の健康維持・増進に重大な役割を果たす」ともいわれている。
このことから他者との間に支援的関係を維持できている人は、支援的関係を持たない人よりは、心身の適応状態が悪化しにくいのではないかと考えられる。

また、与えられるソーシャルサポートはその対象によっても質が異なる事が言われている。

嶋(1991)では、対象別にソーシャルサポートの検証を行い、その結果父親からのソーシャルサポートは全般的に低い、母親からのサポートは全般的に高く、中でも道具的・手段的サポートを得られる対象である、などの結果が得られている。







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5.インターネット利用におけるメディア意識


実際のインターネットコミュニケーションについて調べていく時に重要になるのは、対面のコミュニケーションとどう違っているのか、そしてその原因は何故なのかを解明する事であると考える。

インターネットを使ったコミュニケーションは、対面とは様々な面で異なっている。
その為、対面のコミュニケーションと異なる結果がでたとしても、それが文章でのコミュニケーションからなのか、インターネットに対する印象からなのか、相手によるものなのかの判断がつきづらい。

そうした原因を探っていく上でも、様々な角度からインターネットコミュニケーションについて検証する必要性があると考えられる。

都築ら(2005)においては、メディアに対する意識がツールの利用頻度にもたらす影響について質問紙調査が行われた。

その結果、メディアコミュニケーションに困難を感じる人程使用頻度が下がる事や、携帯メールではメディアコミュニケーションの困難さを感じづらく、携帯メールには最もメディアに対する親和感情を抱いている、などメディア意識とメディア利用の間に様々な影響が見られた。






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6.目的

(1)インターネット上での自己開示

前述した通り、人とコミュニケーションを行う際に自己開示を行うことはお互いの関係を深める上でも重要な手がかりとなっている。これまでの研究で、対面とインターネット上での自己開示には様々な違いがあることが指摘されている。

そこで、友人関係を築く上で対面の場合と、インターネットの場合ではどのように開示が異なっているのかを知るために、インターネットを利用していない人物の対面の友人関係、インターネットを利用している人物の対面の友人、そしてインターネット上での友人を比較することで、インターネット利用者とそうでない者の対面の開示に違いがあるのか。また、対面の友人に対する自己開示とインターネットの友人に対する自己開示がどのように異なっているのかを検証したい。


(2)インターネット上の友人からのソーシャルサポート

自己開示が上手く行われていれば、対面の場合と同様にインターネット上でも自尊感情や動機付けなど様々な感情に対するサポートや、手段的なサポート、情報提供のサポートなどが得られると考えられる。

嶋(1991)では大学生を対象にサポート源別にソーシャルサポートの因子得点を比較している。その結果、同性の友人からの心理的・娯楽的サポートは多く、中でも最も親しい友人に関しては心理・娯楽・問題解決などの面で他を上回る因子得点が出ていた。
本研究においては、インターネット上での同性の友人関係においても、同様にソーシャルサポートはみられるのかを検証したい。


(3)自己開示とソーシャルサポートの関係

自己開示とソーシャルサポートの間には関連性があることが指摘されている。
友人関係を築く中で人は様々な自己開示を行い関係を深めていく。
そして、様々な自分の情報を相手に開示することによって相手からより適切なサポートを受ける事が出来るようになっていく。

対象が異なれば同じ開示を行ったとしても得られるサポートは変わる事が十分に考えられるし、同様にツールが異なる事によって同じ開示をしても得られるサポートが変わる事が考えられる。

そこで、本研究においては対面の友人のみの群、対面・インターネット双方に友人のいる群での対面の友人に対するもの、インターネットの友人に対するもの、その3つの間で、自己開示とソーシャルサポートの間の関連がどう異なっているのかを比較、検証したいと考える。


(4)メディア意識と自己開示・ソーシャルサポートとの関連

都築ら(2005)の研究では、様々なツールごとにメディア意識を計測し、対人意識と共に使用頻度について分析を行って、メディア意識(親和感情、メディアコミュニケーションの困難さ、情報収集・伝達の3因子から成る)がそれらに影響を及ぼしているという結果が得られている。

電子メールや、携帯電話といったツールに比べたらやや広義であるもののインターネットも1つのメディアである。

インターネットというメディアに関する意識が、インターネットコミュニケーションを行う上でどのように影響を及ぼしているのかを知るために、本研究においてはまずは、対面のみでコミュニケーションを行っている者のメディア意識、双方でコミュニケーションを行っているもののメディア意識を比較してどのように異なっているのかを検証したい。

さらに、インターネットに対するメディア意識が、インターネットコミュニケーションにおける自己開示や、その相手から受けるサポートに対してどのように影響を及ぼしているのかを検証したい。




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