序章
近年、子どもの対人関係や対社会関係能力の低下から様々な問題が指摘されている(e.g.,吉田,1997)。この問題に対して、初等教育段階から社会的能力を涵養するような取り組みが必要であると考えられ、学級単位のソーシャルスキルトレーニング(e.g.,藤枝・相川,2001)などが実施されるようになってきた。 しかし、現実の学校教育の中で、このような実践を本格的に行うことは、教師の負担や、実践者の専門性の確保といった問題など、様々な面で制約が多く実現は難しい。そこで考えられるのが心理学を学ぶ学生の「ボランティア」による教育的活動である。 三重大学教育学部で教育心理学を学ぶ大学院生・学部生を中心としたボランタリーなグループは、子どものコミュニケーション能力の育成をねらいとした「わくわくコミュニケーションクラブ」と称する活動を2004年度から開始し、活動は3年目を迎えた。この集団は、三重県内のM小学校区内の4〜6年生の子どもを対象として、心理学をベースとした小学生のコミュニケーション能力育成のためのプログラム開発、実践及び報告を行ってきた(廣岡ら2005a; 2005b; 廣岡ら,2006a)。 この実践では、社会的スキルを獲得することにつながるグループ活動を通じて、子どものコミュニケーション能力を高めることを目的としている。毎年、春クラス、秋クラス、冬クラスの3シーズン実施し、1ヶ月に約2回程度の活動をしている。( ![]() このような活動では、子どもの変化を捉えることと、学生の意識の変化は相互に作用しあっており、両者は切り離せない関係であるといえる。よって、このような心理学をベースとした活動を研究する時には、子どもの変化と大学生の変化の双方について検討する必要がある。 そこで、本稿では、第1章において、小学生の変化に焦点をあて、廣岡ら(2006b;印刷中)が確立してきたコミュニケーション能力の評価方法のさらなる検討を行う。また、子どものコミュニケーションスキルが1年間の活動で活動初期と後期で変化をしたのかをその評価方法を用いて明らかにする。 第2章では、教育実践の実施者である学生の変化に焦点をあて、学生が実践をするうえでどのようなことに焦点をあてているのかを探り、理論をベースとした現場の実践を経験しての問題意識の変遷を明らかにする。 |