第1章
教育実践活動においては、その活動がもたらす効果について実践者自身が評価していくこともきわめて重要な実践活動となる。 これまで、子どもの社会性を涵養するような取り組みでは、子どもの評価を主に尺度による自己評定で行ってきた。わくわくコミュニケーションクラブでも、初年度には社会的スキル尺度(戸ヶ崎・坂野,1997)を用いた子どもの自己評定によって、コミュニケーション能力が測定された。しかし、評価の妥当性や子どもの測定能力について疑問があった。そこで導入されたのがPerformance Assessment(以下PA)であった。 ■PAとは■ PAとは、ある特定の文脈のもとで、様々な知識や技能などを用いながら行われる、その人自身の作品やふるまい(パフォーマンス)を直接に評価する方法のことである(鈴木, 2004; 松下, 2005)。例えば、松下(2005)は、PAの考え方に基づいたRubric(評価基準)とTask(パフォーマンス課題)を用いて児童、生徒の算数と数学の学力(課題に対する思考プロセスなど)を測定している。PAにおいては、できるだけ現実的で本物らしい場面を設定し(文脈性)、能力をひとまとまりのものとして把握しようとする(分割不可能性)ことにその特徴がある(鈴木,2004;松下,2005)。 小学生のコミュニケーション能力を考えると、現実の社会的場面における特定の課題に対して発揮される総合パフォーマンスとしてのコミュニケーション行動を直接評価の対象とするPAがより適していると考えられる。そこで、PAという方法を適用することによって、コミュニケーション能力の評価が可能になると考えられ、このPAという評価の方法が適用されるようになり(廣岡ら,2006;廣岡ら,印刷中)、本活動ではPAの考えに基づいたRubricを開発することと、そのRubricを用いて評定できるようなTaskを開発してきた。 これまでの研究で、ある程度の妥当性と信頼性は確保されたが、評価するスキルによって信頼性が充分でないものがあり、さらに信頼性の高いPAにする必要が課題として残された。 ■モデレーション■ この、信頼性を確保する手段として、モデレーション(Moderation)というものが考えられる。モデレーションとは、評価の一貫性を確保するもので、具体的には評定者への訓練や評定者間の討議、評価基準の共通理解、事例集の提案などがあげられる。 そこで本章では、以下の3つの研究を行った。 ★研究1では、モデレーションを実施し、PAについてのさらなる信頼性の確保を目指す。 ![]() ★研究2では、このPAが活動に関わっていない人物によっても、活動に関わっているものと同じように活用できるのかを検討する。 ![]() ★研究3では、そのPAを用いて、小学生への教育効果を検討することで、PAの持つ教育評価としての活用可能性について検討する。 ![]() |