総合考察

 

  まず、中国の大学生が日本の大学生よりも、「応用」と「強制」「理解」「成長・向上」の学習観を持っているということと、日本の大学生が中国の大学生よりも、「反復」の学習観を持ってい

るという ことが明らかになった。辻本(1999)は、「滲み込み型」の教育を「模倣と習熟」の学習文化と捉え、これが日本には古くからあったことを論証している。この学習文化は現代の日本

に おいても生き ていると考えられており、「反復」の学習観の存在はこれを裏付けるものであろう。

 また、日本の大学生は、中国の大学生よりも、学習観が文化的自己観に影響を受ける傾向が高いということが明らかになった。そして、中国の大学生よりも日本の大学生の方が特に、

相互協 調的文化観から影響を受ける傾向が見られた。これは、日本が相互依存的な役割社会であり、人間関係が重視され、人の気持ちを理解することが重視される「気持ち主義」の社

会であるという 東(1994)の指摘を支持するものであるといえるだろう。

 そして、日中とも文化的自己観から学習方略への影響があまり見られず、学習観が学習方略に影響を与えているということが明らかになった。その中で、興味深いのは、日本の大学 生

におい て、「主体的探求」の学習観から学習方略への影響が見られないことと、中国の大学生において、「応用」の学習観から学習方略への影響が見られないことであった。このことから、

日本の大学 生にとって「主体的探求」の学習観は単純な学習観であり、中国の大学生にとって「応用」の学習観は単純な学習観であり、それ故学習方略への影響が見られないと考えられ

るのではないだろ うか。

 最後に、学習観と学習方略の関係については、学習観が学習方略に影響を与えていたが、その影響の仕方は日本の大学生と中国の大学生では異なっていた。特に、日本の大学生の

方が 中国の大学生よりも「強制」という否定的学習観から学習方略への影響を受けていることと、中国の大学生の方が日本の大学生よりも「理解」の学習観から学習方略への影響を受け

ていることが 分かった。これは、文化的自己観の観点から解釈しやすいと考えられる。t検定の結果より、日本の大学生の方は中国の大学生より、相互協調的自己観を持っている、また、

中国の大学生の方 は日本の大学生より、相互独立的自己観を持っている。日本の大学生においては、他者との関係を重視するという相互協調的自己観が高いと、やらされるという「強

制」の学習観は持ちやすく なり、「強制」の学習観はまた規定要因として学習方略に影響を与えていると考えられるのではないだろうか。中国の大学生において、個人の独自性を主張する

相互独立的自己観が高いと、 「理解」という個人的な学習観は持ちやすくなり、「理解」の学習観はまた規定要因として学習方略に影響を与えていると考えられるのではないだろうか。以上

のことから、日中ともに学習観が文 化的自己観からの影響を受け、また学習観学習方略に影響を与えていたが、その様相は日本と中国で異なり、それぞれの文化の特徴に影響を受けて

いたことが示唆されたと考えられる。

 



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