要旨


 本研究は、絵本場面における想像と現実の問題を扱った。

 幼児は絵本の出来事と現実の出来事の区別を理解していく一方で、両者の関係が揺れ動いたかのような姿もみせる。

 本研究では、この揺らぎの要因となっていると考えられる幼児自らの絵本に対する想像的な関与と感情喚起に注目し、幼児の絵本場面における絵本の出来事と現実の出来事の区別や揺らぎの発達的変化について検討を行うことを目的とした。登場人物に幼児の名前を付けることで想像を誘発させて、そのときの感情喚起の要因から想像的活動の内容を推測することで、絵本の出来事と現実の出来事の区別や揺らぎを検討する実験課題を、4歳児、6歳児に対して実施した。

 結果、4歳児と6歳児でネガティブ感情の種類に差がみられ、そのネガティブ感情喚起の要因にも差がみられた。4歳児はネガティブ感情喚起の要因を絵本内容と言及し、6歳児はその要因を名前の違いと言及していた。これにより、名前付け時の幼児の想像的活動の内容に差がみられたことが示唆された。このとき、4歳児は想像によって絵本の出来事と現実の出来事を結び付け絵本の出来事に引き込まれていた傾向にあり、6歳児は同じ状況でも比較的安定した読者の立場で絵本に関わっていた傾向にあったと推測された。

 また本研究では、上記の検討と併せて、幼児における、絵本の出来事と現実の出来事の区別についての理解の1つの指標として、現実には起こりえない空想的な事象に対する幼児の理解をとりあげた。Samuels& Taylor(1994)によるイラストを用いた空想/現実の区別課題を実施し、幼児の絵本に対する理解をみるとともに、上記の課題の結果との関連についても併せて検討を行なった。

【キー・ワード】絵本,想像,感情喚起,空想/現実の区別,幼児




問題と目的