続いて、第3の目的であった幼児のテレビゲーム遊びの有無に母親の育児不安・育児肯定感が関連しているのか、結果を分析していく。

3.テレビゲーム遊びの有無と育児不安・育児肯定感との関連についての分析

3-1) テレビゲーム遊びの有無との相関

幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連があるものは何か調べるために、まず「テレビゲーム遊びの有無」、「テレビゲーム遊びに対する賛否」、「育児不安得点」、「育児肯定感得点」の相関を算出した(Table 14)。

相関係数から、「テレビゲーム遊びの有無」と「テレビゲーム遊びに対する賛否」との間に1%水準で有意な正の相関がみられた。また「テレビゲーム遊びの有無」と「育児肯定感得点」との間に5%水準で有意な正の相関がみられた。つまり、母親がテレビゲーム遊びに賛成か反対かということと、母親の育児肯定感の高低が、幼児にテレビゲーム遊びを与えることと関連しているといえる。

また、「育児不安得点」と「育児肯定感得点」との間に1%水準で有意な負の相関がみられた。



3-2) テレビゲーム遊びの有無とテレビゲーム遊びに対する賛否のカイニ乗検定

相関係数から幼児のテレビゲーム遊びの有無には、母親のテレビゲーム遊びに対する賛否が最も関連していることが明らかになった。そこで、母親のテレビゲーム遊びに対する賛否と幼児のテレビゲーム遊びの有無との間にどのような関連がみられるのか明らかにするために、母親のテレビゲーム遊びに対する賛否別に幼児のテレビゲーム遊びの有無の人数を算出し、カイニ乗検定を行った(Table 15)。その結果、有意な差がみられたので残差分析を行ったところ、母親がテレビゲーム遊びに賛成の場合と、どちらともいえない場合は、幼児にテレビゲーム遊びを与えている割合が与えていない割合よりも有意に多く(p<.001)、母親がテレビゲーム遊びに反対の場合は、幼児にテレビゲーム遊びを与えている割合よりも与えていない割合の方が有意に少ないことが明らかになった(p<.001)。






3-3) 育児不安得点・育児肯定感得点の記述統計

 住田(1999)の因子分析結果にならって、「育児についての一般的な不安感情」、「子どもの成長・発達に関する不安」、「母親自身の育児能力に対する不安」、「育児負担感・育児束縛感による不安」、「育児に対する肯定的感情」の5つの下位尺度を構成した。それぞれ内的整合性を検討するために、Cronbachのα係数を算出したところ、「育児についての一般的な不安感情」はα=.629、「子どもの成長・発達に関する不安」はα=.530、「母親自身の育児能力に対する不安」はα=.723、「育児負担感・育児束縛感による不安」α=.587、「育児に対する肯定的感情」はα=.655となった。「子どもの成長・発達に関する不安」においてはα係数を低めている項目があったので、分析においてはその1項目を削除した結果α=.750と十分な値が得られた。

 育児不安・肯定感尺度のそれぞれの因子ごとの平均値と標準偏差(S.D)をTable 16 に、育児不安・肯定感のそれぞれの高低群の内訳をTable 17 に示す。育児不安においては「母親自身の育児能力に対する不安」と「育児についての一般的な不安感情」において平均値よりも高い値を示した。育児不安得点・育児肯定感得点のそれぞれの平均値をもとに、育児不安低群(N=134)、育児不安高群(N=112)、育児肯定感低群(N=137)、育児肯定感高群(N=113)に分類した。さらに、育児不安・肯定感の高群低群をクロス表にし、育児不安High-Lowと育児肯定感high-lowで分類したところ、H-h群(N=36)、H-l群(N=75)、L-h(N=73)L-l群(N=59)となった(Table 18)。







3-4) 育児不安とテレビゲーム遊びの有無との関連

 母親の育児不安の高低と幼児のテレビゲーム遊びの有無に関連があるのか調べるため、カイニ乗検定を行った(Table 19)。その結果、有意な差はみられなかった。







 続いて、仮説の1つであった「育児不安の高い母親は、テレビゲーム遊びが子どもの成長に悪いと思っていながらも、子どもにテレビゲームを与えやすいだろう」ということについて検証するために、まずは全体の育児不安の高低群をさらに、テレビゲーム遊びに対する賛否別に分けて、テレビゲーム遊びの有無の割合を比較した(Table 20)。カイニ乗検定の結果、有意な差がみられた。そこで、残差分析を行った結果、育児不安の高低に関わらず、テレビゲーム遊びに対して賛成の母親ほど幼児にテレビゲーム遊びを与えており、反対の母親ほど幼児にテレビゲーム遊びを与えていないことが明らかになった。この結果は、テレビゲーム遊びに対する賛否とテレビゲーム遊びの有無との関連を比較したTable 15と同様の結果になった。このことから、母親の育児不安の高低はテレビゲーム遊びに対する賛否を踏まえても、幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連しておらず、「育児不安が高い母親は、テレビゲーム遊びが子どもの成長に悪いと思っていながらも、子どもにテレビゲームを与えやすいだろう」という仮説は支持されなかった。






続いて、育児不安の4つの因子をそれぞれ高群低群にわけ、さらにテレビゲーム遊びに対する賛否別に、テレビゲーム遊びの有無を算出し、同様にカイニ乗検定を行ったが、有意な差はみられず、本研究では、どのような育児不安がテレビゲームを与えることと関連しているのか明らかにすることはできなかった。

3-5) 育児不安と育児肯定感・幼児の所属クラス別テレビゲーム遊びの有無との関連

上記の結果から、母親の育児不安の高低は幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連していないことが明らかになった。しかし、どのような人にとっても育児不安は幼児のテレビゲーム遊びの有無に関連していないのだろうか。そこで、母親の育児肯定感と幼児の年齢に注目して、育児不安の高低とテレビゲーム遊びの有無に関連はみられるのか再度検討した。

まず、育児不安感の高低群をさらに育児肯定感の高低群に分けて、テレビゲーム遊びの有無の人数を算出し、カイニ乗検定を行った(Table 21)。その結果、育児不安の低群において有意な差がみられたので残差分析を行ったところ、育児不安感が低く育児肯定感が高い母親は、育児肯定感が低い母親より、幼児にテレビゲームを与えない割合が有意に多いことが明らかになった(p<.01)。育児不安の高群においては有意な差がみられなかった。






続いて、育児不安の高低群をさらに、幼児の所属するクラス(年少・年中・年長)別に分けて、テレビゲーム遊びの有無の人数を算出し、カイニ乗検定を行った(Table 22)。その結果、育児不安の高群において有意な差がみられたので残差分析を行ったところ、育児不安の高い母親は、幼児が年少クラスに所属している場合は、幼児にテレビゲーム遊びを与えている割合が与えていない割合よりも有意に少なく、幼児が年長クラスに所属している場合は、幼児にテレビゲーム遊びを与えている割合が与えていない割合よりも有意に多くなった(p<.01)。育児不安の低群においては有意な差がみられなかった。




以上のことから、母親の育児不安は全体でみると幼児のテレビゲーム遊びの有無との関連は見られず、母親のテレビゲーム遊びに対する賛否が最も関連していたが、育児肯定感の低い母親にとっては幼児のテレビゲーム遊びの有無を分ける際に育児不安の高低が関連しており、また、育児不安の高い母親は幼児の年齢が上がるほど、テレビゲーム遊びを幼児に与えやすくなることが明らかになった。

3-6)育児肯定感とテレビゲーム遊びの有無との関連

 母親の育児肯定感の高低と幼児のテレビゲーム遊びの有無に関連があるのか調べるために、カイニ乗検定を行った。その結果有意な差がみられたので、残差分析を行ったところ、育児肯定感の低い母親は幼児にテレビゲームを与えている割合が、与えていない割合よりも有意に多く、その値は、さらに育児肯定感の高い母親よりも有意に多いことが明らかになった(p<.05)。





 続いて、「育児肯定感の低い母親はテレビゲーム遊びが子どもの成長に悪いと思っていながらも、子どもにテレビゲームを与えやすいだろう」という仮説を検証するため、テレビゲーム遊びに対する賛否を育児肯定感の高低群にわけ、テレビゲーム遊びの有無を算出し、カイニ乗検定を行った。その結果、有意傾向である違いがみられたので残差分析を行ったところ、テレビゲーム遊びに反対でなおかつ育児肯定感が低い母親は、育児肯定感が高い母親よりも、幼児にテレビゲームを与えている割合が与えていない割合よりも有意に多いことが明らかになった(p<.10)。このことから、「育児肯定感が低い母親は、テレビゲーム遊びが幼児にとって悪いと思っていながらも、テレビゲームを幼児に与えやすい」という仮説は支持されたといえる。





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