育児不安・育児肯定感との関連の考察
4.テレビゲーム遊びの有無と育児不安・育児肯定感との関連についての分析結果の考察
本研究では、第3の目的の仮説として以下の2つを挙げていた。
1,「育児不安が高い母親は、テレビゲーム遊びが幼児にとって悪いと思っていながらも、テレビゲームを幼児に与えやすい」
2,「育児肯定感が低い母親は、テレビゲーム遊びが幼児にとって悪いと思っていながらも、テレビゲームを幼児に与えやすい」
結果として以下のことが明らかになった。
Tテレビゲーム遊びに対する賛否との関連について
幼児のテレビゲーム遊びの有無と最も関連していたのは、母親のテレビゲーム遊びに対する賛否であった(Table 14)。特に、テレビゲーム遊びに対して賛成の母親うち88.9%が幼児にテレビゲーム遊びを与えており、母親の考えとの関連度の強さがうかがえる。また、幼児のテレビゲーム遊びに対してどちらともいえないという母親においても、68.7%の母親が幼児にテレビゲームを与えているのに対し、反対の母親で、幼児にテレビゲームを与えている割合は35.2%のみであることからも、母親に反対という意思がない場合は、幼児にテレビゲーム遊びを与えやすいことが明らかとなった。
U育児不安との関連について(仮説1)
育児不安の高低と幼児のテレビゲーム遊びの有無との関連について以下の結果が得られた。育児不安の高低だけでは幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連していないことが明らかになった(Table 19,20)。つまり、育児不安の高低にかかわらず、幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連していたのは母親のテレビゲーム遊びに対する賛否であった。このことから、「育児不安が高い母親は、テレビゲーム遊びが幼児にとって悪いと思っていながらも、テレビゲームを幼児に与えやすい」という仮説1は支持されなかった。
しかし、育児肯定感の高低や幼児のクラスによってさらに分類して分析すると、育児不安も幼児のテレビゲーム遊びの有無に全く関連していないということではなく、一部関連していることが明らかになった。まず、育児不安が低い場合、育児肯定感が高いと育児肯定感の低い母親よりも幼児にテレビゲーム遊びを与えない割合が有意に多くなることが明らかになった(Table 21)。そして、育児不安の高い場合のみ、幼児の年齢が上がるほど幼児にテレビゲーム遊びを与えやすくなることが明らかになった(Table 22)。
V育児肯定感との関連(仮説2)
育児肯定感の高低と幼児のテレビゲーム遊びの有無との関連について以下の結果が得られた。育児肯定感の高低は幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連していた(Table 23,24)。育児肯定感の高い母親は、育児肯定感の低い母親より、有意にテレビゲーム遊びを子どもに与えていないことが明らかになった。幼児のテレビゲーム遊びに対する賛否をふまえるとやはり賛否の関連の方が強いが、テレビゲーム遊びに反対の母親において、育児肯定感が低い母親は高い母親よりもテレビゲーム遊びを幼児に与えていることが明らかになり、「育児肯定感が低い母親は、テレビゲーム遊びが幼児にとって悪いと思っていながらも、テレビゲームを幼児に与えやすい」という仮説2は支持された。
以上の結果から、以下の三点に注目して考察を行う。
1,幼児のテレビゲーム遊びの有無に最も関連しているのは、母親のテレビゲーム遊びに対する賛否であった。
2,育児不安では幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連がみられず、仮説1は支持されなかったが、育児肯定感においては関連がみられ、仮説2は支持された。
3,育児不安が低い母親にとっては育児肯定感の高低が遊びの有無と関連しているが、育児不安が高い母親にとっては育児肯定感の高低は関連していなかった。
4-1)
幼児のテレビゲーム遊びの有無に関連している要因
増田(1995)では、テレビゲーム普及の要因として、「外遊びに必要な場所の減少」、「自由な時間の減少」、「テレビゲームのもつ魅力」の3点を挙げていた。本研究では、幼児のテレビゲーム遊びの有無に「母親のテレビゲーム遊びに対する賛否」が最も関連していることが明らかになった。まず、幼児のテレビゲーム遊びの有無に一番関連していたのは、母親のテレビゲーム遊びに対する賛否であったことについて考察する。
この結果は、つまり、幼児自身のテレビゲームに対する興味よりも、母親自身の考えが幼児のテレビゲーム遊びの有無とは関連していることを示している。同様の結果は、増田(1993)においてもみられる。幼児ではなく母親の考えが、より反映される一つの原因として、ゲーム機が比較的高額な商品であることがあげられる。高額なもの故に最初のゲーム機導入には、保護者の考え方が反映すると考えることは容易である。また、ゲーム機の購入理由(Table 11,12)からもわかるように、対象の幼児が要求して、購入したケースは全体の24.5%のみで、その他は上のきょうだいや、両親が遊ぶために購入したものであったことから、現代の幼児は自ら要求しなくてもテレビゲームのある環境にさらされていることがわかる。上のきょうだいの有無が幼児のテレビゲーム遊びの有無に影響していることは岸本ら(1989)でも明らかになっており、上のきょうだいがテレビゲーム遊びをしていたら、下の子ども(対象児)もテレビゲーム遊びをするようになるといった流れは自然に起こりうると思われる。ここで注目したいことは、両親がするために購入した割合が全体の37.4%を占めていることである。現代の母親はテレビゲーム世代であることから、テレビゲーム遊びを遊びの一つとして自然に受け入れていることが考えられ、また、ここ数年のゲーム機の販売戦略として、ゲーム離れを回避するために、子どもだけでなく家族や親世代をターゲットとしたものがよく見られるようになった(http://www.nintendo.co.jp/
wii/topics/wii_preview/presentation/04.htmlより)ことが、このような結果につながっているものと考えられる。つまり、増田(1995)がテレビゲーム普及の要因の一つとして挙げていた「テレビゲームのもつ魅力」が幼児にではなく、母親に響いていることが推測される。このように、現代の母親の3分の1が現在もテレビゲーム遊びをしているという実態が、自分もやっているから子どもに与えても良いという考えを生み、幼児のテレビゲーム遊びの有無に母親のテレビゲーム遊びに対する賛否が関連していることの原因の一つと考えられる。
しかし、本研究では増田(1995)の挙げていたテレビゲーム普及の要因の「外遊びに必要な場所の減少」、「自由な時間の減少」は、テレビゲーム購入理由(Table 11,12)においても、あまり選択されていない。このことは、幼児期に限っては、「外遊びに必要な場所の減少」、「自由な時間の減少」は、テレビゲーム普及の要因とはいえないことを示唆している。幼児期に限っては、テレビゲーム購入理由において、「遊びのレパートリーを増やす目的で」や「家族みんなの交流のために」購入したといった意見の多さからも、幼児本人の意志より、母親やきょうだいなど周りの家族の考えが、幼児のテレビゲーム遊びの有無と強く関連していることが明らかになった。
4-2)
育児不安・育児肯定感の高低とテレビゲーム遊びの有無との関連・T
続いて、母親の育児不安の高低は幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連がみられず、仮説1は支持されなかったが、育児肯定感においては関連がみられ、仮説2は支持されたことについて考察する。
まず、母親の育児不安の高低が幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連しなかった理由を探る。三ッ元ら(2005)は4〜6歳の幼児を持つ母親176名を対象に育児不安と子ども観・養育態度との関連を明らかにしている。養育態度別に育児不安得点を算出したところ、「拒否的態度」、「統制的態度」、「外向的傾向」の順に育児不安得点が高くなることが明らかになった。つまり、母親の育児不安が高いことがある一つの養育態度につながるということではなく、育児不安が高まることによって、子どもからの開放を願う「拒否的態度」をとる母親もいれば、自分の思い通りに子どもを動かそうとする「統制的傾向」の態度をとる母親もいるということである。このように養育態度が異なる理由は、母親のもつ育児観や育児サポートの有無など育児不安以外にも多くの要因が関連しているからであるが、本研究においても同様に、母親の育児不安の高低だけでは、幼児にテレビゲームを与える行為との関連はみられなかったものと思われる。例えば、育児不安が高まることにより、子どもとの関わりを煩わしく思い、テレビゲームを与えることが悪いと思っていながらも、幼児にテレビゲームを与えてしまう母親もいるだろう。逆に、育児不安が高まることにより、子どもをなんとか自分の思うように正しく動かそうと思い、過保護になる母親もいるだろう。このように、育児不安の高まりは、母親のタイプによって育児行動に様々な影響を見せる。よって、本研究では育児不安の高低がテレビゲームを幼児に与えることと関連していないという結果が得られたのだと思われる。
同様に、母親の育児肯定感の高低が幼児にテレビゲーム遊びを与えることと関連していたことについて考察する。育児肯定感は、「子どもを育てることは楽しい」といった感情や、「子どもを育てることは有意義で素晴らしいことだと思う」といった感情の有無で測ることができる。育児肯定感の高い母親は、育児により積極的に関わることが期待されるが、逆に低い母親は育児を楽しめないため、あまり積極的に関わることが期待できない。このように、育児肯定感の高さは育児に対する関心度と捉えることができる。このことから推察すると、育児に対して関心が高ければ、育児において直接的な関わりを多くとり、幼児にテレビゲーム遊びを与える必要はないだろう。しかし、育児に対する関心が低いと、育児において直接的な関わりを避け、幼児にテレビゲーム遊びを遊びの一つとして与えやすくなると思われる。このように、母親の育児肯定感においては、その高低によって、ある一定の育児行動をとることが推測される。よって、本研究では育児肯定感の高低とテレビゲーム遊びの有無との間に関連がみられたのだと思われる。
4-3)
育児不安・育児肯定感の高低とテレビゲーム遊びの有無との関連・U
続いて、育児不安が低い母親にとっては育児肯定感の高低が幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連しているが、育児不安が高い母親にとっては育児肯定感の高低が関連していなかったことについて考察する。
住田(1999)は「育児は、母親の肯定的感情が基底をなしている。育児に携わっている限り、誰もがある程度の育児不安を持つが、通常は育児肯定的感情が確固としているために育児不安が喚起されることはない。その限りにおいて育児不安による混乱は生じない。」と述べている。このことから、「子どもを育てることは楽しいことである」といった考えや「子どもを育てるのは有意義で素晴らしいことだ」と育児に肯定的な感情を抱き、関心を持っているかどうかが、まず母親の育児に対する考えの基盤にあり、子どもとの関わりと関連していると考えられる。
以上のことをふまえ、まず、母親の育児不安が低い場合について考察する。住田(1999)の育児不安・育児肯定感のタイプ分けを元に、荒牧(2003)は育児不安・育児肯定感をそれぞれの高低の組み合わせによって分類し、育児不安が低く、育児肯定感が高い母親を「安定型」、育児不安が低く、さらに育児肯定感が低い母親を「無関心型」としている。荒牧(2003)は、「安定型」の特徴を、たとえ育児に対して不安や苛立ちなどの否定的な感情を抱くことがあっても、根底に育児を楽しむ余裕があるために、結果として育児肯定感の方が強く、心理的ゆとりを持って育児に臨めていると述べており、本研究においても、「安定型」の母親は、心理的ゆとりがあるため、幼児にテレビゲーム遊びを与えなくても、幼児と関わることができているのだと思われる。
また、荒牧(2003)は「無関心型」の特徴を、育児に振り回されることを恐れ、育児によってもたらされる苛立ちや不快感を回避したいがために、初めから育児に対して強い期待を抱かない、育児に期待しない代わりに育児が思い通りにいかなくても不安に感じない、育児自体に興味が持てないタイプであり、そのため育児以外への興味の方が強いと述べている。本研究においても「無関心型」の母親はより幼児にテレビゲーム遊びを与えており、育児に対して関心度が低いことが伺える。このことから、育児不安の低い母親においては、育児肯定感の高低は幼児のテレビゲーム遊びの有無と関連していた。
続いて、母親の育児不安が高い場合について考察する。母親の育児不安や育児ストレスが高くなると、幼児テレビゲーム遊びの有無に育児肯定感の高低が関連できなくなった。育児不安が高く、さらに育児肯定感も高い母親は、育児に対して関心を持ち、育児は素晴らしいものだと考えながらも、自分の思うように育児ができない現状に不安感を抱いている葛藤の状態であることが推測される。このような状況下では、事実としては育児が上手くいかない、満足できない状況があるので、育児不安感の高さが育児肯定感を勝り、育児肯定感によって、育児不安を抑制することはできないだろう。また、育児不安が高く、さらに育児肯定感も低い母親は、育児において困難な状況にあると思われる。
このように育児不安が高くなると、育児肯定感によって抑制できなくなり、幼児にテレビゲーム遊びを与えるかどうかには、母親自身のテレビゲーム遊びに対する考え、つまり、テレビゲーム遊びに賛成かどうかや、母親自身の育児観が強く関連してくるのだと考えられる。また、育児不安が高い場合、低い場合よりも育児肯定感が低くなる人の割合が多いため、育児に対する関心度が低くなることから幼児の年齢が上がればテレビゲームを与えてもよいという風潮に流されやすくなると考えられる。