総合考察

 本研究の目的は、1.読み聞かせ中の幼児の発言が集団で楽しむ読み聞かせを構成する一部となる と考え、読み聞かせにおける子ども同士の楽しさ共有とその相互作用の実際を、集団での読み聞かせ中 の幼児の読み聞かせに関する発話同士の相互作用、また保育士の発話との関係に注目し明らかにするこ と、2.その年齢による発達的な違いを検討することであった。

 その結果として、読み聞かせ中の幼児の発話の中でも、不特定の他者にむけた発話である全体的発話 が、集団での絵本の読み聞かせの楽しさ共有、一体感と関連していることが明らかとなった。それは、 独自発話、他児影響発話において、3歳児から5歳児で、全体的発話の割合のみが、それぞれの発話の内 わけの中で増加していたためである。5歳児で読み聞かせ実験を行い保育者にインタビューを行った 横山(2003)は、保育者は5歳児の子どもの自発的な発話や、意図・ねらいに沿った内容の発話から一 体感を感じると述べている。また3歳児に比べると5歳児は、発達に伴いより他児を意識し集団での絵 本の読み聞かせを楽しむことができるようになっていると考えられる。このことからも、3歳児と5歳 児で、独自発話・他者影響発話において、その割合に増加がみられたのは全体的発話のみであり、共 有的発話-友達の発話の向きには年齢間で差がみられなかったことから、全体的発話が絵本読み聞かせ において他者との楽しさ共有の指標であるといえる。

 また、読み聞かせにおける幼児の相互作用の実際は、5歳児においては他児の発話を単に繰り返すだけ でない発展的な発話が増え、発話数の増加だけでなく内容的に異なる質を持った発達的変化を含むと した高橋ら(1996)の先行研究と一致する結果であった。5歳児では、他児の発話の意味も理解しつつ その影響をうけ、全体的な発話を行っていた。また5歳児では、幼児同士の発話の相互作用が、一部 の幼児間でなく集団全体規模で起こっていることがわかった。
 一方で3歳児においても、5歳児に比べると集団での絵本読み聞かせ中の発話にしめるその割合は低い が、集団での絵本の読み聞かせ活動に積極的に参加していると考えられる全体的発話を行っており、 また幼児同士の発話の相互作用もみられることが明らかとなった。高橋ら(1996)は、3歳児群では、 集団としての力動的な相互関係が、言語的な指標を見る限りでは明確にみられなかったと述べていた。 しかし、3歳児においても、独語的な発話や近くの特定の友達への発話などに加え他児影響発話、 全体的発話がみられ、相互作用が起こっているといえるだろう。

 本研究で明らかとなったことをふまえ、集団での絵本の読み聞かせにおける幼児の発話の意義を考える 。集団での絵本の読み聞かせを子どもたちが共に関係を築きながら、絵本の読み聞かせを共感しあい 楽しむこととするならば、読み聞かせにおける幼児の発話は、読み聞かせの中で幼児同士の考え・ 感情などの相互作用の媒体として、読み聞かせに必要なものであるといえる。特に、一見騒がしい 発言のようにとれる、不特定他者に発せられる全体的発話は、幼児が絵本の読み聞かせを集団の中 で楽しんでいる姿と考えられるため、読み聞かせにおいてその扱いや、捉え方を見直したい。
 3歳児では、独自発話にはまだあまり他者の発話の影響がみられておらず、独自発話にしめる全体的発話の 割合と、自己内完結の発話である独語的発話の割合がほぼ同じ程度である。しかし5歳児に比べると その割合は低いが、独自発話の中に全体的発話の存在もみられている。また、他児の発話に影響され て全体的発話を行うなどの発話の相互作用や、集団として他児を意識した発話の存在がみられ3歳児 でも相互作用は起こっているといえる。このことから、保育士は読み聞かせ中の幼児の発話を認める ことや、時にはその発話を拾い、3歳児の子どもたちに、他児の発話に意識をむけさせる必要もあると 考えられる。そうすることで、集団での絵本読み聞かせにおいて、幼児の他児との読み聞かせの楽しさ 共有の規模が、広がるだろう。
 5歳児においては、他児の発話からの気づきといった他者からの影響や幼児同士の相互作用がよくみら れた。また相互作用の規模も3歳児と比べ大きい。このため5歳児の集団での絵本の読み聞かせにおいて は、子どもたちの発話をいかしながら、集団として絵本読みを行っていきたい。絵本の物語を楽しむだ けでなく、子どもたちそれぞれが様々な気づきを行い、考えや想像力を発展させていくことのできるよ うな、奥深い読み聞かせを行っていきたい。




今後の課題

 本研究では、集団での絵本の読み聞かせにおける幼児の発話を、主に<発話の向き>と、<発話がうけ た影響>について検討した。他児の発話に影響をうけた幼児の発話が、多数起こっていることが明らか となったが、更に他児のどのような発話に影響をうけていたのか検討する必要があるだろう。また、本 研究における絵本の読み聞かせは、そのねらいを子どもたちが「読み手も含め共に関係を築きながら 、絵本の読み聞かせを共感しあい楽しむこと」とし、読み聞かせに用いた絵本も、子ども立ちの情感 を引き出すようなストーリー性の強いものでなく繰り返しのある、子どもたちの発話や感情の波を喚 起するようなものを用いた。絵本読み聞かせのねらいは、本研究のねらいのほかにも、様々設定する ことができるだろう。また、用いる絵本によっても、子どもたちの発話の内容・相互作用の様が、変 化することも考えられる。そのため、子どもたちが絵本の物語の世界に浸ることのできるような絵本 などでは、どのような子ども同士の相互関係や発話がみられるか、検討する必要があるかもしれない 。
 また、読み聞かせにおいて、子どもたちの絵本読み聞かせに関する発話を引き出すことができるよ うな、子どもたちと絵本読み聞かせを共に作りあげるための関係づくり、絵本の選定、保育士による 絵本読みについても、あわせて追及していく必要があるだろう。



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