考察

 本研究では、シャイネスかどうかによってどのようなコミュニケーションの差があるのかを内容に注目して検討するとともに、シャイネスな人が対面可能性の違う友人と対面・携帯メールでどのようなコミュニケーションを行っているとよりよい感情を抱いているのか、を検討した。



対面でのコミュニケーションについて

対面状況では、対面可能性の低い友人に対してのみ、シャイネス高群はシャイネス低群より有意傾向で課題的COM、有意に情緒的COMを行っていないことがわかった(Table 3)。課題的COMの因子の「愚痴を伝える」や情緒的COM全ての因子が自己開示的な内容であったので、松島(1999)の研究の「シャイネスな人は自己開示しない傾向にある」という結果から、その二つはシャイネス高群が比較的苦手とするコミュニケーション内容だと予想される。しかし、対面可能性の高い友人に対してはシャイネス高群・低群とで差はなかった。これらのことから、シャイネス高群であっても共に過ごす時間が多くなることで恥ずかしさが減少され、対面状況でアドバイスを求めたり悩みを相談したりすることがたやすくなる可能性が考えられる。

また、コンサマトリー的COMではどちらの友人に対してもシャイネス高群と低群とで有意な差がみられなかった。それは、コンサマトリー的COMが単なるおしゃべりといわれるように、自分の内面について話すというよりも表面的なやりとりとして行える内容だったからではないだろうか。

対面可能性の高い友人に対しては、シャイネス高群は話せる内容が限られるということはなかったが、対面可能性の低い友人に対しては課題的・情緒的COMでシャイネス低群より少なかったので、仮説は対面可能性の低い友人に対してのみ支持されたといえる。



対面可能性の高い友人とのメールでのコミュニケーション

シャイネス高群がシャイネス低群より対面可能性の高い友人にメールで話せる内容が限られるという仮説を支持する結果は得られなかった(Table 4)。各メディアで行ったコミュニケーション内容について尋ねる質問の中に、「自分から進んで出来たこと」とつけることで、相手から聞かれて答えたコミュニケーション内容と区別しようと質問紙を作成する際工夫を行った。しかし、実際自分が友人と話した内容についてどちらから話し始めたかを特定することは難しく、区別しきることが出来なかった可能性が高い。

また、対面可能性の高い友人とのメール回数においても有意な差は得られなかった(Table 5)。シャイネス高群はシャイネス低群と同じだけ対面可能性の高い友人とメールをしていたが、相手が大学の友人であるため、遊びの約束や授業・レポートについてなどのやりとりをすることが多く、友人からメールが送られてやりとりが開始する可能性が考えられる。

シャイな人が「メールをするきっかけ」や「話をするきっかけ」を自分で作ることに難しさを感じているため、松島(1999)で示されたように自己開示をしない傾向にあるのならば、相手から行動を起こされることで様々なコミュニケーションをとることは可能なのかもしれない。したがって、対面可能性の高い友人からは多くの働きかけを受けるため、シャイネス高群と低群で差がでなかったのだと考える。

それに対し、対面可能性の低い友人とのメール回数においては有意な差がみられた。対面可能性の高い友人に比べてメールをしなくてはいけない機会が少ないため、対面可能性の低い友人からメールを送られてくることが少ないことに加え、用事がないとシャイネス高群はメールを送ることが出来ないという可能性が考えられる。内容量に関してはシャイネス低群と差がなかったが、回数に関しては有意な差が得られたことから、やはりシャイネス高群はきっかけ作りに難しさを感じていると考える。

結果は仮説2を支持するものではなかったが、コミュニケーション内容、メールの回数について、相手から行動を起こされた場合と区別することで対面可能性の高い友人とのコミュニケーションでも差が出る可能性があるだろう。

しかし、シャイネス高群が対面可能性の低い友人に対し、対面ではシャイネス低群より話せないことも、メールではシャイネス低群と同じだけ話せていたことから、きっかけさえあればメールは対面状況より話しやすいと考えられた。

仮説1と仮説2の検証

仮説と仮説が実証されなかった最も大きな理由として、回答する際に「最も親しい友人」を想起し、回答を求めたことが考えられる。石田(2003)の研究では、大学入学後新たに形成された友人関係については、シャイな人はシャイでない人に比べて親密化が進行しにくいが、一度形成された親密な友人関係を維持することはシャイでない人と差がなく、困難でないことが示された。「最も親しい友人」においてはシャイな人であっても恥ずかしさを感じることはなく、シャイネスによってコミュニケーション内容に差が出るのは最も親しい友人以外の、まだ気心の知れない友人や初めて出会った人においてかもしれない。したがって、このような友人の場合もしくは、入学直後で非常に親しい友人がいない状況で検討を行うことが今後必要だろう。

対人関係尺度得点について

シャイネス高群はシャイネス低群より友人に対する肯定的感情をもちにくく、否定的感情を持ちやすいという仮説3を支持するものだったといえる(Table 6 )

シャイネス高群における対面可能性の低い友人とのメールコミュニケーション

シャイネス高群は対面可能性の高い友人より低い友人にメールでより多くのコミュニケーションを行っていると予測したが、検定の結果から(Table 7)、シャイネス低群においても対面可能性の低い友人により多くのコミュニケーションを行っていた。そこで親しさを統制したデータを用いて再度分析を行った結果(Table 8)、シャイネス高群・低群どちらも有意に対面可能性の低い友人にメールでコンサマトリー的COMを行い、情緒的COMに関してはシャイネス高群においてのみ有意傾向で対面可能性の低い友人により行っていた。

古谷・坂田(2006)は遠距離友人との関係維持が携帯メールで情緒的・コンサマトリー的COMを行うことで可能になることを示した。特にコンサマトリー的COMがより関係維持と関係していたことから、コンサマトリー的COMの目的が関係維持であるならば、対面可能性の高い友人とは大学で会って様々な内容の話をすることが可能なのだから、わざわざメールでおしゃべりや現状報告などを行う必要がない。逆に対面可能性の低い友人とは対面で話をすることが出来ないため、関係維持を目的としたメールでのコンサマトリー的COMが比較的盛んに行われるのではないだろうか。したがって、シャイネス高・低、両群において有意に、コンサマトリー的COMが対面可能性の低い友人に行われたのだと考えられる。

 情緒的COMは、シャイネス高群において有意傾向で対面可能性の低い友人にメールで行っていた。これは仮説4を支持するものであったが、考慮するべき点が残されている。シャイネス高群はメールで情緒的COMを行っていたが、コンサマトリー的COMと同様、対面可能性の高い友人には対面状況で悩みの相談ができるため、メールでの情緒的COM得点が低かった可能性がある。

 各コミュニケーション内容について話すなら「誰に」と尋ねる質問にすることで対面可能性の異なる友人、どちらに話しやすいかが明らかになるだろう

対面可能性の低い友人とのメールコミュニケーションによる対人感情の違い

対面可能性の低い友人とのメールコミュニケーション量による対人感情の違いについての結果では、シャイネス高群でも対面可能性の低い友人とメールでより多くのコミュニケーションを行っている人は相対的に友人に対する肯定的感情を持ちやすく、否定的感情を持ちにくいだろう、という仮説を一部支持するものだった(Table 9)。シャイネス高群は対面可能性の低い友人とコミュニケーションを行うことで充実感、幸福感、連帯感などにつながる肯定的感情をもつことは出来るが、孤独感・疎外感・憂鬱感などにつながる否定的感情を解消することにはつながらなかった。

それらから否定的感情はコミュニケーション量に関係なく、シャイネスという特性が持つ感情であることが示唆された。

一方、シャイネス低群では、対面可能性の低い友人とのメールでのコミュニケーションと対人感情に関連がないことが明らかになった。

 



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