問題と目的

本研究では、シャイな人にとって携帯電話のメール機能がどのような役割を果たしているかをコミュニケーション内容とコミュニケーション相手との関係に注目して調べることとする。

シャイネスについて

一般的に「恥ずかしがりや」や「照れ屋」といわれるシャイネスは状態シャイネス(state  shyness)と特性シャイネス(trait shyness)に分けられる。状態シャイネスは「ある特定の社会的状況の中でのみ生起するもの」と考えられており、特性シャイネスは「特定の社会的状況を超えて個人内に存在し、社会的不安という情動状態と対人的抑制という行動特徴をもつ」と定義されている(相川,1991)。

諸変数との関連から特性シャイネスの特徴を明らかにしようとした研究では、特性シャイネスと公的自意識、社会的スキル、自尊心、他者評価、印象評定との間に相関関係が示された(相川,1991)。そのうちの公的自意識とは、自己の服装や髪型、あるいは他者に対する言動など、他者が観察しうる自己の側面に注意を向ける程度に関する個人差である(菅原,1984)。つまり、シャイな人は他者の自分を見る目が気になることから不安が生じやすく、対人的抑制という行動特徴を持つ、と解釈することが出来る。

また、松島(1999)の研究では、シャイネスは自己開示と中程度の負の相関、社会的スキルとは高い負の相関があることが示された。特に社会的スキルの対人積極性スキルとシャイネスが強い負の影響関係を示していたことから、シャイな人の自己開示が低い原因を対人積極性が欠如しているためと説明した。また、菅原(1998)は対人不安傾向と対人消極傾向は異なる特性次元ではあるものの、両傾向の間に正の相関があることを明らかにし、石田(1998)はシャイな人の友人関係はシャイでない人に比べて、友人に対する行動が乏しく、友人との親密性の認知も低いことを明らかにした。

以上のことから、シャイな人は他者からの目を気にしてしまい、友人に対してコミュニケーションを自らとろうとすることが少なく、言いたいことを自由に言うことができないと予想される。そこでまず、シャイネス高群と低群とで特に他者からの目が気になると考えられる対面状況で話せる内容の違いを調べることとする。


コミュニケーション内容について

古谷・坂田(2006)のコミュニケーション・メディアとそのメディアで展開されるコミュニケーション内容が友人関係満足度に与える影響を調べた研究では、コミュニケーション内容をに分類して研究を行った。1つ目は、本人が直面した問題に対する具体的な解決法などをやり取りする「課題的コミュニケーション」、2つ目は悩み事の相談や気持ちの理解といった自己開示をする「情緒的コミュニケーション」、3つ目は単なるおしゃべりと考えられる「コンサマトリー的コミュニケーション」である。

本研究では古谷・坂田(2006)のコミュニケーション内容に新たな項目を加え、再度分類を行い、シャイネスとコミュニケーション・メディアとの関係を調べる。例えば「自分の悩みや愚痴を伝える」という項目を「悩みを伝える」と「愚痴を伝える」にわけ、さらに「悩み」を恋愛・友人関係・家族・将来に分けるなど、より細かく尋ね、新たに分類を行い研究を進める。


シャイネスと対人関係の感情

友人関係の形成においてコミュニケーションをとることはとても重要である。言いたいことを言い合える関係を持つことは充実感や幸福感などを感じることにつながるだろう。内田(1990)の青年の生活感情に関する研究は、生活感情が「人の次元」と「時間的展望の次元」の二次元に分かれ、さらにそれぞれが2領域に分かれることで次元4領域となることを示唆するものであった。そのうち友人関係が要因となる対人関係の領域には肯定的感情と否定的感情があり、それらはそれぞれ充実感・幸福感・連帯感などと孤独感・疎外感・憂鬱感などにつながる。

もしシャイな人が対面状況でコミュニケーションの内容を限られるのならば、自分が友人に受け入れられているという肯定的感情を抱きにくく、否定的感情を抱きやすいだろうと考える。そこでシャイネス高群と低群とで友人関係に対する感情の違いを調べる。


携帯電話のメール機能と話しやすさ

近年携帯電話は急速に普及した。情報通信白書(総務省,2008)によると平成19年度末の携帯電話・PHSの契約数は1億を越え、保有率も9割近くに上っている。さらに今日携帯電話は多機能化し、その中でもメール機能は若者にとって最も身近なコミュニケーションツールになったといえる。辻・三上(2001)によると大学生の携帯電話・PHSの利用率は9割を越えており、そのうちのほとんどの者が携帯メールを利用していた。携帯電話のメール機能が大学生にとって重要なコミュニケーション手段の一つとなっていることがわかる。

メールやBBSなどのコンピュータを介したコミュニケーションCMCComputerMediatedCommunication以下CMC)は、その「話しやすさ」に注目されており、いくつかの研究もされてきた。例えば杉谷(2007)は、非言語的手がかりが少ないメディアを「話しやすい」と感じるプロセスを、自己呈示効力感が媒介していることから説明した。また西村(2003)の対人不安によるCMCと対面状況の話しやすさの差についての研究では、対人不安傾向高群の人が対面状況よりもCMCを有意に話しやすいと評価していることが明らかになった。

しかし、これらのCMCの研究はどちらもパーソナルコンピュータを通してコミュニケーションを行う実験であった。コミュニケーションをとる相手が実際会ったことのない人であったり、誰の発言かが特定されたりしない点でアドレス交換が必要なため相手が知り合いで、実際に会う可能性もある携帯電話のメールとはコミュニケーションをとる際の心理に異なる点が多いと予想できる。そういった点から、携帯電話のメールにおいても、本当に誰しもが話しやすさを感じるのだろうかと疑問が残る。


対面可能性の異なる友人とのコミュニケーションと対人関係の感情

以上のことから、友人とのコミュニケーションを困難としていると考えられるシャイな人はどうか検討を行う。CMCは話しやすいと言われているが、シャイな人は先に述べたように公的自意識と相関があったことから、たとえメールであったとしても例えば相手が次の日会う可能性の高い友人であると対面時に恥ずかしさを感じてしまうと考えられる。そして結局メールであっても対面時のことを考えてしまい自由に話すことができないのではないだろうか。

他方、もし相手が、しばらく会う可能性のない遠くにいる友人ならどうだろうか。対面状況でなく、さらに遠くにいるため偶然出会う可能性も低く、対面でコミュニケーションをとることが少ない友人であれば対面可能性の高い友人に比べて、自由に話すことができるのではないだろうか。そこでコミュニケーションをとる友人の対面可能性に注目し、シャイな人が対面可能性高・低、各友人に対して行ったコミュニケーション内容の差を調べる。

また、赤坂・高木(2004)の研究で、メールで本心を伝えることが友人関係への満足感につながることが明らかになった。そのことから携帯電話のメールにより、離れたところにいる友人とのコミュニケーションが可能になったため、シャイな人でも対面可能性の低い友人に様々な話ができていれば、相対的に友人関係に対して肯定的感情を持てるだろう。


仮説

.シャイネス高群はシャイネス低群より対面で話せる内容が限られるだろう。

.シャイネス高群はシャイネス低群より対面可能性の高い友人にメールで話せる内容が限られるだろう。

.シャイネス高群はシャイネス低群より友人に対する肯定的感情をもちにくく、否定的感情を持ちやすいだろう。

.シャイネス高群は対面可能性が高い友人より、対面可能性が低い友人に対してメールで内容を限られることなく話をしているだろう。そしてシャイネス高群でも対面可能性の低い友人とメールでより多くのコミュニケーションを行うことができている人は友人に対する肯定的感情を持ちやすく、否定的感情を持ちにくいだろう。

 



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