第5章 総合考察
第1節 2つの研究結果をとおした総合考察
本研究において,手段保有感,手段の認識については,「方略」,「友人」も含め,その手段の明確な分化が認められた。つまり,大学生においてはそれぞれの手段は別々のものとして認知されているのだろう。
また,CAMIの各期待間の関連の検討から,統制信念と努力保有感,能力保有感,方略保有感との正の関連がみられた。このように,つまり「自分は努力ができる」,「自分には能力がある」,「自分は方略を用いることができる」という期待が,成功への期待や有能感などに重要であると考えられる。このように統制信念は主に手段保有感との関連を示したが,運保有感,友人保有感とは正の関連が示されなかった。運や友人は外的要因として解釈ができ (Weiner, 1972, 1979),外的要因の保有感が高くても,成功できそうという期待とは関連しないことが分かる。つまり,自分には運があるという期待や,自分には援助してくれる友人がいるという期待が高くても,やはり外的な要因であるため成功への確信が持てるとは限らないのかもしれない。
CAMIと学習行動の関連を検討することで,その各期待の特徴が検討された。
方略保有感は,メタ認知的方略への影響を示した。メタ認知的方略は,学習の量よりも「計画を立てて学習を進める」などの学習の質を重視しており,「自分は方略を用いることができる」という期待はより質的な学習行動を促すことが分かる。Bandura (1977),Schunk & Zimmerman (1996) は自己効力感と持続性の関連について言及しており,自己効力感は手段保有感の中でも努力保有感,能力保有感に最も対応すると考えられているが (Skinner et al., 1988b; 上淵, 2004),方略保有感は学習の持続性へ正の影響を与えるということから,方略保有感も自己効力感に対応する期待なのかもしれない。
方略の認識は,自己調整学習方略,学習の持続性,授業選択への影響は示さなかったが,授業の内容によっては共同作業,作業学習を促すことが示された。さらに,方略の認識は努力学習を阻害することも示され,これはやり方が成功につながるので努力を重視した行動は抑制するということを表していると考えられる。
努力保有感,努力の認識は,特に量を重視した自己調整学習方略への強い影響を示した。「自分は努力ができる」という期待や,「努力が成功につながる」という期待を持つ人ほど,量をこなすような学習を行うということである。また,努力保有感は積極的な授業選択,有用性のある授業選択に関連すると考えられ,積極的な学習を促す重要な期待であると考えられる。
統制信念については,自己調整学習方略,認知的方略のメタ認知 (メタ認知的方略),理科学習における学習方略への有用性が示されており (熊谷・山内, 1999; 鈴木, 1997, 1999),本研究においても統制信念は,メタ認知的方略,認知的方略への影響が認められた。また,統制信念は難易度と有用性の高い授業選択との関連を示した。さらに,統制信念は授業内,授業外においても学習行動を促進し,特に有用性のある授業における学習行動を促進すると考えられる。
能力保有感については,自己調整学習方略,学習の持続性への影響はみられなかったが,授業形態重視,単位重視の授業選択と負の関連を,難易度の高い授業選択への正の影響を示した。自己効力感が高いほど積極的,挑戦的に行動するとされるが (奈須, 1995),能力保有感も自己効力感に対応すると考えられており (上淵, 2004),本研究の結果は先行研究と一致する。
能力の認識を持つと授業形態を重視した授業を選択し,難しい授業を選択しないことが示された。能力が成功につながるのなら,挑戦的な課題の選択はやめようということを反映しているのかもしれない。これは,能力の認識がいくら高くても,学校での取り組みの高さには反映されていないことを示した先行研究の結果 (Skinner et al., 1990) と関連すると考えられる。今回の結果から特に「能力」と「難易度」の関連が示唆された。
運保有感,運の認識については主に熊谷・山内 (1999),鈴木 (1999) の結果と同様に学習行動を阻害することが示された。やはり,「自分には運がある」,「運が成功につながる」という期待を持つと,運任せになって自分から積極的な行動を行わないのであろう。これは運保有感の認知的遂行における有用性を示したChapman & Skinner (1989),Chapman et al. (1990) の結果とは異なるものである。上述した運保有感と統制信念との関連から考えても,運保有感の扱いはChapman & Skinner (1989),Chapman et al. (1990),Skinner et al. (1988a) の研究とは大きく異なる。しかし,運保有感,運の認識は授業の内容によっては学習行動を促すことが示された。これは,課題の内容と組み合わせることによる,運保有感,運の認識の有用性を示すものである。
教師の認識は自己調整学習方略における人的リソース方略への影響が示された。これは,教師の援助が成功につながるという期待が,人の助けを借りる方略の使用を促すということである。また,授業の内容によっては学習行動を阻害することも示され,これは教師の認識と学習行動との負の関連が示された先行研究と一致する (Little et al., 1995; Oettingen et al., 1994; 鈴木, 1997)。先行研究では人的リソース方略や,課題の内容別による学習行動との関連は検討されておらず,そのため今までは教師の認識の有用性が示されてこなかったのかもしれない。
未知の原因は自己調整学習方略,学習の持続性,授業選択へは影響を示さなかったが,授業内容によっては学習を促すことが示された。先行研究では未知の原因の学習行動への有用性は示されておらず (Little et al., 1995; Oettingen et al., 1994; 鈴木, 1997),この結果の違いについては課題の価値づけなどの観点からの更なる研究が必要である。
また,「友人 (の援助) 」についての期待である友人保有感,友人の認識は,方略保有感,方略の認識と同様に授業選択への影響を示さなかった。また,友人の認識は学習行動を阻害することが示された。これは友人の助けが成功につながるのだから自分では学習行動を行うこともなくなってしまうということであろう。一方,友人保有感は学習行動への影響は示されなかった。本研究では「他者」を表す期待である「教師」と「友人」を区別して扱ったが, 他の期待や学習行動との関連から,両者は同一の期待ではないということが示唆された。
学習行動については,主に先行研究で示されていた統制信念,努力保有感の有用さとともに (Chapman et al., 1990; 熊谷・山内, 1999; Little et al., 1995; Oettingen et al., 1994; 鈴木, 1997, 1999),方略保有感の有用さが確認された。また,興味,難易度などの授業内容との関連において,授業内容によって学習行動に対する期待の影響の仕方が異なることも示された。
第2節 今後の課題
・質問紙の項目においての修正
・小学生,中学生,高校生を対象にして,発達的側面を視野に入れた研究実施
・他の変数との関連から方略保有感,方略の認識の位置づけについて検討
・質問紙調査だけではなく,CAMIと実際のパフォーマンスとの関連の検討
・期待を高めるような実践についても今後考えていく必要性
引用文献
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