◆問題◆
1.迷惑行為
近年、煙草のポイ捨てや路上駐車などの迷惑行為が社会問題として取り上げられている。迷惑行為は社会のルールやマナー違反につながり、人々の調和を乱す行為である。ルールやマナーは人々が生活する上で必要不可欠なものであり、集団生活において重要な役割でもある。しかし、他者に害を与えるほどの逸脱した迷惑行為から、人によっては迷惑だと認知しない程度の迷惑行為など様々なものが存在し社会に氾濫している。そのような迷惑行為の中で、斎藤(1999)は公共の場で生起する迷惑行為を「社会的迷惑行為」と呼び「行為者が自己の欲求充足を第一に考えて、他者に不快な感情を生起させる行為」と定義した。社会的迷惑行為は人々が集団生活を送るうえで、妨げになるものであり、迷惑行為の規制や抑制要因を検討することは重要である。しかし、公共の場で生起する社会的迷惑行為は、その迷惑行為が生起する環境や状態によって、迷惑行為の度合いも変化し、対応も困難である。規制・抑制要因をより詳細かつ正確に検討するために、社会的迷惑行為の中で分類された迷惑行為をより詳細に検討を重ねていくべきである。特に人間関係に影響を与える、対人的な迷惑行為の抑制要因の検討は必須だと考えられる。そのため、本研究では、社会的迷惑行為の中でも親しい友人や知人に対して生起される「対人的迷惑行為」について取り上げる。
2.対人的迷惑行為
社会的迷惑行為の中には「対人的迷惑行為」と呼ばれるものがある。この対人的迷惑行為の抑制・防止をするためには、条例などではなく個々人の迷惑行為への認知や迷惑行為を抑制する要因を知ることが重要である。
この対人的迷惑行為は「約束を破る」「待ち合わせの時間を守らない」など、親しい知人や友人に対して生起される迷惑行為である。小池・吉田(2005)は対人的迷惑行為を「受け手が限定されている状況で、その受け手が迷惑と認知した行為」と定義している。このような迷惑行為は人との調和を乱す行為であり、所属する集団内の活動に支障をきたすものである。しかし、生起した対人的迷惑行為は、対処が非常に困難であると吉田・斎藤・北折(2009)は述べている。なぜなら「集団内の人間関係を重視し相手に注意をしにくい」という場合や、「仲がいいということが全ての問題を解決する」という根拠のない認識を個々の成員が持っていると考えられるからである。
対人的迷惑行為の対処が困難な場合、吉田ら(2009)によると迷惑行為の対処方法も重要であるが迷惑行為を生起させないようにすることも重要であると述べている。そのため、迷惑行為の抑制要因を知ることは、友人関係や所属集団の維持にもつながると考えられる。よって、本研究では対人的迷惑行為の抑制要因について検討する。
3.迷惑行為抑制要因 ―共感性について―
小池・吉田(2007)は対人的迷惑を抑制する要因として共感性を取り上げている。吉田ら(2009)によると共感性とは「思いやり=誰に対しても平等で優しく接することができる」と定義している。この共感性があることで、友人や知人を思いやり、迷惑行為を生起しないと考えられる。
この共感性には、相手の立場に立って物事を見て、相手を理解するといった認知的共感性(e. g., Dymond, 1948)と相手の感情と同じものを自分の中で経験するといった情動的共感性(e. g., Stotland, 1969)がある。認知的側面の傾向が高い場合は、相手の立場に立って物事を見ようとするため、より正確に相手の気持ちに共感できると考えられる。
しかし、情動的側面の傾向が高い場合は、あくまで相手の感情を自己の経験に応じて推測しているだけであり、相手に共感できているとは限らないとされている。これは他者への配慮や相手の立場になって本当に共感できているとは言えないため、迷惑行為を生起させている可能性がある。逆に認知的側面の高い者は共感する際に相手の立場に立とうとするため、相手を不快にさせたり、負担になるような迷惑行為を生起しにくいと考えられる。
しかしながら、共感する対象によっては迷惑行為を生起させる場合も考えられる。例えば、電車での携帯電話の通話は、電話をかけてきた友人に対して共感できているかもしれないが、周囲の他者に共感できていない行為である。そのため、他者から見ると迷惑行為と認識される。このように共感性が高いことだけが迷惑行為を抑制する要因にはならない。よって、対人的迷惑行為を生起させないためには、共感性以外の抑制要因を検討する必要がある。
4.迷惑行為抑制要因 ―客観性について―
1)客観性に関して
迷惑行為の抑制要因には、相手に共感するだけで終わらず、主観に囚われない幅広い視点を持つことが望ましいと考えられる。幅広い視点を持つことで、1つの立場だけでなくあらゆる立場を考慮でき物事を適切に判断し、客観的に見ることができるようになる。そこで、幅広い視点やその傾向性を客観性として扱い、対人的迷惑行為の抑制要因として取り上げる。
客観性が高く、共感性の情動的側面を持つ者は、他者の立場を考慮できるようになり迷惑行為を生起しないと考えられる。また、吉田ら(2009)は「共感性は1対1の場面だけでしか適応されない」と述べているが、客観性が高く共感性の認知的側面を持つ者の場合、周囲の他者にまで目を向け共感できるようになり、迷惑行為を抑制するのではないかと考えられる。
2)対人的迷惑行為に特化した客観性の定義
客観性は様々な事象や場面で使用される言葉であり、その場面によって客観性の意味合いは異なってくる。したがって、本研究では対人的迷惑行為場面に特化した客観性を定義するものとする。
対人的迷惑行為を生起させないためには、他者への配慮だけでなく「自分の行動が他者に不快な思いをさせていないか」など自身の行動を省みることや、「自分の行動や意見が主観によらず他者を尊重できているか」などの姿勢が必要である。よって、対人的迷行為に特化した客観性とは「物事を進めるときや判断をするとき、主観に頼らず事実や現実を保ち判断、行動しようとすること」と定義する。
3)対人的迷惑行為に関する客観性尺度作成について
客観性に関する尺度はこれまでに作成されていない。よって、迷惑行為を抑制する要因となるのかを検討するために客観性尺度を作成する。今回、客観性尺度は対人的迷惑行為場面と関連が高い客観性と想定している。そのため、尺度名も「迷惑行為場面に特化した客観性尺度」とする。
客観性に関する質問項目として廣岡・小川・元吉(2000)のクリティカルシンキング(以下CT)志向性から項目を選出している。CTとは「適切な基準や根拠に基づく、論理的で、偏りのない思考」と定義されており、廣岡ら(2000)によると、そのCT志向性の高い者は冷静な判断をしようとする傾向が確認されている。客観性は思考や判断をする場合において、主観に頼らずに物事を進めようとすることが必要であるため、これらの質問項目を選出した。また、迷惑行為を生起させないためには、他者に対して不快感を与えないように意識することが必要であると思われる。そのため、辻(1993)の内的他者意識の項目を選出した。内的他者意識とは、他者の心情や感情などの内的な部分を意識するものであり、対人的迷惑行為が生起される場面において、他者の不快感に着目するか否かは重要な視点である。そのため、内的他者に関する質問項目から項目を選出した。迷惑行為生起の場面では、自分の主観によらず自分の行動をその場に合わせて調整しなくてはならない。そのため、土田・福島(2007)のセルフモニタリング尺度の項目から、自己内省に関する項目を選出した。公共の場や集団内での自己の行動を調整することが迷惑行為を生起しない要因になると考えられる。他にも迷惑行為を生起させない要因として、直観による行動よりも合理的に判断し行動することが必要であると思われる。そのため、直観性の低い者は客観的に物事を判断していると考えられるため、内藤ら(2004)の情報処理スタイル尺度-(合理性・直観性)日本語版REIの直観性項目を選出した。
質問項目の詳細は、下記の研究1の方法に記載しているTable 1に示す。
4)対人的迷惑行為実行頻度について
本研究では、対人的迷惑行為の実行頻度を測定し分析を行うものである。しかし、迷惑行為者の中には、迷惑行為だと自覚していながら迷惑行為を行う者、その行為が迷惑行為であると自覚せずに迷惑行為を行う者に分類される。迷惑行為を自覚せずに生起する者には、直接的に迷惑行為の有無を自由記述で尋ねたとしても、迷惑だと自覚していないため、回答を得られない可能性がある。また、迷惑行為を自覚している者に尋ねたとしても社会的望ましさから、正確な回答を得られない可能性もある。そのため、今回は小池(2003)の対人的迷惑行為表を使用する。この対人的迷惑行為表には、対人的迷惑行為24項目が載せられている。この対人的迷惑行為表に該当する行動の頻度を被験者に回答させ、得点の高い者は「対人的迷惑行為を生起しやすい者」とし、逆に得点の低い者を「対人的迷惑行為を生起しにくい者」とする。この生起しにくい者が持つ要因を調査し、迷惑行為の抑制要因を検討する。
詳しい対人的迷惑行為実行頻度項目は下記にてTable 4にて示す。
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