*問題と目的*
1-3
1.はじめに
私たちは人間関係を良好なかたちで維持していくために他者に対して自分のことについて知ってもらえるように、自分のことに関する話をすることがある。一方が自分の話をする、つまり自己開示をする開示者であれば、他方はそれを聞く被開示者の役割を担っており、通常はそれぞれの役割を適宜交代しながら適切なコミュニケーション活動を展開していく。一方が自己開示していくばかりでは他方は話を聞くばかりとなり、情報交換の見地からは、いずれはバランスが崩れ、両者の関係は良好とは言えなくなるであろう。良好な人間関係を維持するうえで、話をする側と聞く側の双方のスムーズなコミュニケーションがポイントとなる。
そのうえで、どちらの役割が重要か考えたとき、上手に自分の話をして相手に伝えることも重要であるが、相手の言いたいことをうまく引き出して相手の話を上手に聞くことも重要なことである。しかしながら、他者の話を聞く行為は簡単そうで実は難しい面もあるのではないか。そこに何かしらの技術があるのだとすれば、それを明らかにして、良好な人間関係の構築に向けての示唆を与えることができ、意義のあることと考えている。本研究は、開示を受ける側の立場から、相手の話を聞くとはどういうことなのか検討していく。
2.自己開示について
“自己開示”は、高田(2001)によれば、「特定の他者に対して、自分自身に関する情報を言語を介して伝える行為」と定義されている。
そして、これまでの自己開示の研究を概観すると、話し手、すなわち、開示者の研究、聞き手(受け手)についての研究、そして話し手と聞き手の相互作用の研究の3つに大別できるとしている。
まず、開示者の研究では、自己開示量や開示内容に注目した先行研究が多く行われている。たとえば、自己開示量の先行研究では、和田(1995)によって、適度な自己開示がなされている場合に心理的幸福感は最も高いことが明らかにされた。そして、開示内容に注目した先行研究では、佐藤・吉田(2007)によって、匿名状態は対面状態よりも、より内面的な内容を開示することが明らかにされた。
このように自己開示量や開示内容に注目した先行研究は多いが、それらは開示対象者の属性や開示の状況によっても変わってくると考えられる。また、被開示者側においての先行研究では、川西(2008)が、開示した内容を被開示者に受容された方が拒絶された時より開示者の気持ちをポジティブなものにさせることを明らかにしている。このように、被開示者の話の聞き方次第で、開示者側の自己開示の進み具合は大きく変わってくると考えられるし、開示者への態度で開示者の気持ちが変化する可能性も十分に考えられる。
すなわち、自己開示は、いわば一時的にも開示者と被開示者の二者関係のあり方があらわれる社会的場面ととらえることができ、その場面を規定する要因として、被開示者側の要因もウエイトが大きいと考えられる。本研究では、研究としてはそれほど多くは行われていない被開示者側の要因の問題に着目していく。
3.オープナーについて
そこで、本研究では、被開示者が開示者の発する情報等をどのように受けるのかということに焦点を当て、とくにMiller,Berg.&Archer(1983)が取り上げているオープナー(opener)特性の問題について検討する。Millerら(1983)によると、オープナーとは「他者から開示を引き出しやすい人」と定義されている。そして、個人がオープナー特性をどの程度有するかを測定する尺度であるオープナー・スケールを作成した。その尺度の得点の高い人を高オープナー、得点の低い人を低オープナーとしたとき、前者の方が後者よりも相手から開示され、好感を持たれていたことを明らかにし、さらに高オープナーは、開示者からの評価として、インタビューが快適で、親しみやすく、人柄のよい人であると評価され、社会的スキルがあり、感じのよい人と認知されるということを明らかにした。また遠藤(1993)では、低オープナーは高オープナーに比べて自分の考えや意見など関連付ける発話が少なかったことが示されている。
そのようなオープナーに関するいくつかの定義を踏まえて、本研究では、オープナーとは「開示者が話したくないことまで聞き出すのではなく、開示者が話したいと思うことをうまく適切に引き出し、相手の話について自分に関することを開示する人」のことと定義する。
また、ここでいう「オープナー」は、いわゆる「聞き上手な人」と類似した意味を含んでいるが、本研究ではそれも包含しつつもやや異なるものとして考える。たとえば、「聞き上手な人」というのは、開示者が「もっと話したい、機会があればまた話したい」と思わせるような聞き方で開示者の話を聞くような被開示者のことであり、「オープナー」はそのような聞き方もしながら、その話題に関する自己開示も適度に行っていくような被開示者を示すと考える。これはMillerら(1983)の研究で高オープナーはインタビューが快適とされたことからも言えるのではないだろうか。インタビューを受け、一方的に質問をされるだけでは快適なインタビューとは言えず、被開示者からの答えへの何らかの対応があると快適なインタビューになると考える。そのためには、自己開示は返報性があるとされており、開示者から開示を引き出すために被開示者である「オープナー」も開示をしていかなくてはいけない。このことから「オープナー」には「聞き上手な人」と同様な聞き方と適度な開示をすることが必要とされると考える。またそのような人にあたる「オープナー」は開示者が話したくないことまで聞き出すのではなく、開示者が話したいと思うことについて「他者から開示を引き出しやすい人」ではないだろうか。
さらに越・塚脇・平山(2009)は、オープナー特性を態度特性・行動特性・容姿特性の3つのカテゴリーに分け、開示動機との関連を明らかにした。態度特性とは、被開示者の物事に対する考え方、捉え方、価値観などに関する特性のことであり、行動特性とは、被開示者の開示者への発言、話の聞き方、視聴覚的働きかけなどの行動に関する特性のことである。そして容姿特性とは、被開示者の表情、服装、体格などの視覚的特性のことである。
これらのことから、オープナー特性として挙げられているものには、2つの側面があるといえるのではないか。まず1つは、越ら(2009)の3つのカテゴリーにおいて、開示者の表情、体格、服装などの容姿特性は、量的に他者と比較できるものではない、個人の特性的で持続的なものであるパーソナリティ的側面に該当すると考えられる。もう1つは、態度特性と行動特性のような、社会生活での経験を踏まえて変化していくコミュニケーション的側面に該当すると考えられる。
*問題と目的*4-7