*考察*
1.受動的先延ばし行動傾向と積極的先延ばし行動傾向の関連について
先延ばし行動傾向には、不適応的な側面と適応的な側面があると考えられ、それがどのように関連するのかを検討するために相関係数を用いて検討した。
まず、受動的先延ばし行動傾向尺度および積極的先延ばし行動傾向尺度における尺度内の相関係数を用い、それぞれの尺度内の関連について検討した。受動的先延ばし行動傾向では「課題先延ばし」と「約束事の遅延」に中程度の正の相関がみられた。この結果は、受動的先延ばし行動傾向の「課題先延ばし」と「約束事の遅延」は、どちらの下位尺度も受動的先延ばし行動傾向を示しているといえる。次に、積極的先延ばし行動傾向では、「プレッシャー管理能力」と「締め切りに間に合わせる能力」に中程度の正の相関がみられたが、「プレッシャー管理能力」および「締め切りに間に合わせる能力」と「意図的な意志決定」は無相関であった。「プレッシャー管理能力」および「締め切りに間に合わせる能力」は、積極的先延ばし行動をするために必要となる力を測定する項目で構成されているが、「意図的な意志決定」は、どのような意識で先延ばし行動をするのか、すなわち、先延ばし行動が意図的に行われるのかについて測定する項目で構成されている。そのため、両者に強い相関はみられなかったと考える。しかし、先行研究でも述べられているように(Chu & Choi,2005;Choi & Moran,2009)、どの下位尺度も積極的先延ばし行動傾向の特徴であるといえる。すなわち、これら3下位尺度は積極的先延ばし行動傾向を示しているといえる。
続いて、受動的先延ばし行動傾向と積極的先延ばし行動傾向の尺度間の相関係数を用い、受動的先延ばし行動傾向と積極的先延ばし行動傾向の関連を検討した。受動的先延ばし行動傾向の「課題先延ばし」および「約束事の遅延」は、積極的先延ばし行動傾向の「締め切りに間に合わせる能力」と有意な負の相関、「プレッシャー管理能力」と「意図的な意志決定」とは無相関であった。この結果は、受動的先延ばし行動傾向と積極的先延ばし行動傾向は、同じ先延ばし行動であるが異なる側面であることを示唆している。先行研究において、不適応的な先延ばし行動は成績や課題の達成に悪影響を与えること、一方で、適応的な先延ばし行動というのは、成績や課題の達成に対する支障が少ないことが明らかにされている(Chu & Choi,2005;小浜,2010)。多くの課題には締め切りが設定されていることが多く、その期限内に終わらせることができないということは必然的に成績や課題に影響を与えると考えると、受動的先延ばし行動傾向の「課題先延ばし」および「約束事の遅延」と「締め切りに間に合わせる能力」に有意な負の相関がみられたことは、妥当な結果であるといえる。また、その他の下位尺度間の相関が無相関であった結果については、受動的先延ばし行動傾向と積極的先延ばし行動傾向が異なる側面であることを示しているといえるだろう。受動的先延ばし行動傾向と積極的先延ばし行動傾向は、「先延ばし行動」をするという点では類似しているが、特に「締め切りに間に合わせる能力」について、受動的先延ばし行動であるか、積極的先延ばし行動であるかによって異なることが示唆された。
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