5.先延ばし行動類型の検討





 先延ばし行動類型を明らかにするためにクラスター分析を行ったところ、上記のような6つのクラスターが見出された。先延ばし行動同士の相関の検討からも、受動的先延ばし行動傾向と積極的先延ばし行動傾向はほぼ無相関であることを考えると、「受動的先延ばし行動傾向型」と「積極的先延ばし行動傾向型」が見出されたのは、妥当な結果だといえる。この6つのクラスターが見出されたことによって、先延ばし行動には、個人内でいくつかのパターンがあることが示唆された。先延ばし行動傾向には、受動的先延ばし行動傾向も積極的先延ばし行動傾向も高い人もいれば、どちらも中程度に行う人もいる。また、受動的先延ばし行動傾向のみが高い人もいれば、積極的先延ばし行動傾向のみが高い人もいる。さらに、受動的先延ばし行動傾向の「課題先延ばし」のみが高い、すなわち、学業場面における不適応的な先延ばし行動傾向のみが高い人もいる。受動的先延ばし行動傾向の「課題先延ばし」のみが高い人がいるという結果については、先行研究における学業場面における先延ばし行動が大学生によくみられる一般的な行動である(Ellis & Knaus,1977;亀田・古田,1996;向後ら,2004)という指摘を支持する結果であるとともに、学業場面のみで先延ばし行動をしてしまう人がいるという問題を浮き彫りにした結果であるといえる。





 この6つのクラスターにおける人数の比較をするために、χ^2検定およびライアンの名義水準を用いた多重比較を行った。その結果、「高先延ばし行動傾向型」の人と「積極的先延ばし行動傾向型」の人が有意に少ないという結果がみられたが、この2つの類型に集まる人の共通点は、積極的先延ばし行動傾向が高いという点であるといえる。すなわち、大学生における先延ばし行動傾向として、どちらかというと受動的先延ばし行動がよく行われていることがいえるのではないだろうか。





 次に、6つの類型についてより詳細な検討を行うために、楽観性、自己効力感、評価不安を従属変数、クラスター分析によって確認された6つの先延ばし行動類型を独立変数とした1要因6水準の分散分析を行った。まず、楽観性側面の「割り切りやすさ」では、課題先延ばし型と高先延ばし行動傾向型に有意な差がみられた。「割り切りやすさ」の全体的な平均値を見てみると、積極的先延ばし行動傾向が低い者よりも高い者の方が、「割り切りやすさ」が高いことが示されている。つまり、否定的な出来事や失敗にとらわれない傾向である「割り切りやすさ」の楽観性側面は、積極的先延ばし行動傾向に影響を与えていることが示唆される。次に、自己効力感の「行動の積極性」では、受動的先延ばし行動傾向型と積極的先延ばし行動傾向型および高先延ばし行動傾向型に有意な差がみられた。また、自己効力感の「失敗に対する不安」では、受動的先延ばし行動傾向型と積極的先延ばし行動傾向型に有意な差がみられた。これら2つの結果においても、「割り切りやすさ」同様、全体の平均値を見てみると、積極的先延ばし行動傾向が低い者よりも高い者の方が自己効力感の「行動の積極性」、「失敗に対する不安」が高いことが示されている。これらは、Chu & Choi(2005)で報告されている受動的先延ばし行動傾向および積極的先延ばし行動傾向と自己効力感との関連の結果と一致している。さらに、「評価不安」では、課題先延ばし型と積極的先延ばし行動傾向型との間に有意な差がみられた。全体的な平均値からも受動的先延ばし行動傾向が高い者の方が評価不安が高いことが示されている。この結果から、「評価不安」という要因は受動的先延ばし行動に影響を与えていること、また、積極的先延ばし行動と受動的先延ばし行動の違いとして、「評価不安」という要因が関連していることが示唆された。


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