*問題と目的*



1.はじめに





 私たちは、やらなければならないことを「明日やろう」と後回しにしてしまうことがある。このことは、先延ばし行動(Procrastination)と呼ばれている。 先延ばし行動は日常生活の様々な場面でみられるが、学習場面においてみられやすいと考えられている。学習場面における先延ばし行動は、大学生の70%以上にみられるといわれている(Ellis & Knaus,1977)。Solomon & Rothblum(1984)は、大学生の46%が期末のレポートを書く時、30%が翌週提出する宿題に取り組む時、28%が試験勉強時に先延ばし行動を示したと報告している。


 学習場面における不適応な先延ばし行動は、成績に負の影響を与えることも明らかにされている(Chu & Choi,2005)。近年、問題視されている大学生の学力低下は、先延ばし行動による影響もあるのではないだろうか。平成11年度教育白書では、今の大学生全体の平均的な学力水準が昔に比べて落ちているという指摘と今の大学生は一般的に学ぶことに関する意欲、関心、動機、心構えが昔に比べて劣っているという指摘の2つが述べられている。森(2005)は、試験でよい点をとることを目的とするごまかし勉強を繰り返すことで、ひたすら作業的に勉強し、「黙って労役に従うことに耐えられない人」は、逃避のために課題先延ばしをすることもあるのではないかと指摘している。すなわち、教育白書で指摘されている後者の原因のひとつとして先延ばし行動が考えられるだろう。


 では、先延ばし行動はすべてにおいて悪影響をもたらすものなのかという疑問がでてくる。例えば、息抜きのために課題を先延ばししたり、時間を効率よく使うためにあえて課題を後回ししたりするということが考えられる。このような先延ばし行動の適応的な側面は、先行研究により明らかにされている(Chu & Choi,2005;小浜,2010)。先延ばし行動は、不適応的な行動であると思われがちであるが、適応的な側面も存在するのである。これまでの先延ばし行動研究において、この両側面に焦点をあてられた研究というのはあまり見られない。


 本研究では、先延ばし行動がよくみられるといわれている大学生を対象に、不適応的な側面と適応的な側面に焦点をあて、より詳細な先延ばし行動の特徴を検討していきたい。



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