4.先延ばし行動と楽観性との関連を検討する際に着目する要因






○自己効力感



 自己効力感とは、Bandura(1977)の社会的学習理論において、ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという個人の確信のことでセルフ・エフィカシー(Self-Efficacy)とも呼ばれている。Bandura(1977)では、自己効力感には2つの水準があるとされている。ひとつは、行動選択に直接的な影響を及ぼす自己効力感、もうひとつは、個々の課題や状況に依存せずに、長期的に、より一般的に個人の行動傾向に影響を及ぼす自己効力感である。後者の自己効力感を測定する尺度として、坂野・東條(1986)は、一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)を作成している。この尺度は、個人が一般的にセルフ・エフィカシーをどの程度高くあるいは低く認知する傾向にあるかという、一般的なセルフ・エフィカシーの強さを測定するためのものである。GSESは、「行動の積極性」、「失敗に対する不安」、「能力の社会的位置づけ」の3下位尺度で構成されている。前にも述べたように、先行研究において、自己効力感と受動的先延ばし行動傾向には負の相関、積極的先延ばし行動傾向には正の相関があることが明らかにされており(Chu & Choi,2005)、先延ばし行動に自己効力感が関連していることが示されている。また、安藤(2004)において、MOAI-4と自己効力感の関連について、楽観性が低い者は自己効力感が低いこと、多面的な楽観性のいずれかひとつが高ければ、自己効力感を維持することが可能になることが示唆されている。これらのことから、自己効力感の高低によって、楽観性が先延ばし行動に与える影響が異なる場合があると考える。すなわち、自己効力感が低い場合であっても、楽観性側面のいずれかが高いことによって、先延ばし行動傾向に与える影響が異なる可能性が考えられる。これらを確かめるには、自己効力感の高低における、楽観性が先延ばし行動に与える影響の差を検討する必要があるだろう。





○評価不安


 評価不安とは、“成績が気になる”といった大学での評価に関する不安である。小平・安藤・中西(2003)によって、評価不安と多面的楽観性との関連について検討されており、楽観性の中でも特に「割り切りやすさ」と「肯定的期待」は、評価不安と負の関連があることが明らかにされている。「割り切りやすさ」と「肯定的期待」の共通した特徴は、物事を肯定的に捉える楽観性側面であるということだ。つまり、肯定的な信念である楽観性側面が、評価不安の低さに関連を示しているといえる。しかし、従来の研究では、受動的先延ばし行動と不安には正の関連が示唆されている(林,2007;黄・兒玉;2009)。ここで考えられることとして、評価不安が高くても、肯定的な信念である楽観性の側面が高ければ、受動的先延ばし行動を抑制する、もしくは、積極的先延ばし行動を促進する可能性も考えられる。先延ばし行動は、「不安」と関係していると考えられているため、評価不安の高低における、楽観性が先延ばし行動に与える影響の差を検討することによって明らかにすることができると考えられる。



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