3.ハーディネスの獲得と取り上げる意義について

(2010)では、日常生活のどのような経験が大学生のハーディネスを変容させるのかを検討した結果、コントロールは、大学生活の日常的な経験や、容易に達成できるような克服経験を積むことで高められ、コミットメントは、重要なネガティブな出来事を克服することで高められることを報告した。一方、チャレンジについては有意差が認められず、日常生活の経験の中では容易に変容できるものではないようである。

 

また、ハーディネスの獲得について小坂(2008)は、ハーディネスの高さは生涯を通して不変なものではなく、人生の早期において身につけられるものであると述べている。ハーディネスの3つの下位概念の発達についてMaddi(19871988), Maddi & Kobasa(1984) によると、両親と子供の相互作用の中で達成されるべきことが示されている。コミットメントを組み立てるのは人生初期における支援的相互作用であり、両親は、子供の可能性や興味の自然な表現の結果による個体性の重要性を尊重することによって子供を支援する必要があるとしている。次に、コントロールを組み立てるのは克服を許容する人生初期の環境であり、両親が適度に難しい課題を子供に与え、それを子供が達成することによってコントロールを身につけることができるとしている。そしてチャレンジを組み立てるのは、豊かさであると解釈されるような環境変化であり、そのためには親自身が、変化も興味あるもので発達上価値あるものと捉え、それが可能性のサインであると子供に励ますことが必要と述べている。

 

成人になってからハーディネスを高めるトレーニングも存在する。そのための実施されるカウンセリングには3つのステップが存在する(Maddi, 1987, 1988)。最初のステップとして、状況の再構築(situational reconstructing)がある。ここでは、出来事がより悪くなる3つの方法とよりよくなる方法を想像し、次にそれらすべてが実現する際に困難となることを自らに問いかけ、その後の出来事を良い方向に進めるためにこれまでできたことや今後出来そうなことを考えていくものである。なんらかの強い感情がストレスフルな出来事を覆っていて状況の再構築が上手くいかない場合、フォーカシング(FocusingGendlin, 1978)によって因習的な意味づけを脇において自身の体のメッセージに注意を向け、自分の状態を最もよく捉えている意味のある単語・フレーズ・イメージを探っていき、その出来事における個人的意味づけをみつけることができたら、再び状況の再構築に戻ってゆける。そして状況の再構築やフォーカシングを行っても出来事が一時的または永久に不変と思われる場合にはそれを事実性として受け止め、補強的自己改善(compensatory self-improvement)において、個人にとって2番目に問題となることやストレスフルな状況を特定してもらい、人生における他の領域においても、コミットメント・コントロール・チャレンジを行使することができることを思い出してもらい、クライエントの可能性の感覚を増加させることを目標としている。

 

その後そのトレーニングは、これまでのハーディネス研究の結果を踏まえて、ハーディネスが高い様式での対処スキル・栄養・社会的支援・リラクゼーション・身体活動を含めた形のハーディトレーニング(Hardi Training)として実施されている(Maddi, 2002)。具体的なトレーニングの内容は公開されていないが、ストレス対策の実用的概念として位置づけられていることが伺える(小坂,2008)

 

以上のように、ハーディネスは変容可能であり、人生のさまざまな経験の中で獲得される。以上の概念や研究結果、ハーディトレーニングから伺えるのは、ハーディネスは状況によって変わるものではあるが、どんなストレスフルな状況にも対処できるものと言える。成人になってからのハーディネス獲得にはトレーニングが必要となり、簡単に変容できるものではないが、認知的な側面からのアプローチによって変容できることから、誰しも獲得できるものであるといえる。ハーディネスは短期的には変化しないパーソナリティ特性概念と捉えられ(廣岡,2004)一度獲得できれば、簡単になくなるものでもないと考えられる。本研究でハーディネスと失敗に対する認知、挑戦への意欲との関連を明らかにし、ハーディネス獲得への教育的支援のひとつの手がかりを考えることで、ハーディネスを取り上げる意義があると考える。また、ストレス低減との関連をみた研究は多くなされているが、ハーディネスと挑戦への意欲、失敗に対する認知の関連をみた研究はない。

 

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