*問題と目的*





1.はじめに


 私たちは周りの人たちや環境との間で様々な相互作用をしながら生きている。他者と出くわす社会的な場面や場所、その人物などに応じて、様々な影響を受けたり与えたりしながら、私たちは自分の在り方を選択し行動していく。私たちと環境の在り方は様々であるが、その個人と環境との関わり合いの中で、適応的に生きていくことを目指している。この個人と環境との「適応」について根ヶ山(1991)は、個人と環境の間に欲求が満足され、様々な心身的機能が円滑になされる関係を築いていく過程もしくは状態と定義している。さらに、北村(1965)によれば、適応には、心的状態の安定を意味する「内的適応」と社会的・文化的環境への適応を意味する「外的適応」があり、適応とは本来、この双方が統合された状態であるという。


 しかしながら、必ずしも適応がうまくいかないこともあり、一般的には不適応状態として多くの人がストレスを経験している。不適応状態のなかに、適応が行き過ぎた状態として、適応の異常として考えられる「過剰適応」(宮本, 1989)というのがある。石津(2006)は過剰適応を「環境からの要求や期待に個人が完全に近い形で従おうとすることであり、内的な欲求を無理に抑圧してでも、外的な期待や要求に答える努力を行うこと」と定義している。つまり、個人が「内的適応」を無理に抑制してまで「外的適応」しようとする状態が過剰適応である。本研究では、この「過剰適応」について検討する。


 近年、コミュニケーション能力の低下が叫ばれ対人関係に問題を抱える人が増えている。また、学校では教師の言うことを素直に聞くいわゆる「良い子」であることが求められる傾向にあり、自分の欲求や気持ちを抑えつけてしまい学校に不適応を起こす子どもが増えている。こういった理由から、過剰適応に関する研究の必要性が示唆されている。


 特に児童期には外的適応の方に重きを置かれるが、青年期には内的適応の重要性が高まってくるため、青年期にはそれ以前の時期にも増して過剰適応が問題視される可能性がある(桑山, 2003)。また、文部科学省の調査により、中学校ではいじめや不登校、暴力問題の発生率が他の学校に比べ高いといった現状が明らかにされており、中学生は特に心身の問題を抱えやすいことが示唆されている。


 以上のことから、本研究では発達的変化を考慮して青年期前期に属する中学生を対象として過剰適応の問題についての検討をしていく。


 なお、本研究では過剰適応をより一般的に捉えるため、「過剰適応傾向」(益子, 2009)として扱っていく。



つぎへ→