2.過剰適応に関する研究について
過剰適応の概念は近年注目され始めており、これに関する研究は増加傾向にある。その中でも過剰適応が何に影響を及ぼすのかという研究はさかんに行われており、攻撃反応や抑うつ、ストレスなどの精神的健康や自尊心や本来感などの個人の特性や状態などにネガティブな影響を及ぼしていることが明らかにされている。
その一方で、過剰適応に影響を及ぼす要因に関する研究も行われている。そのほとんどの研究が性格パーソナリティや生理的要因といった個人の特性を変数としたものである。これらは遺伝や気質といった要因や、幼少時からの経験などを含めた、慢性的で変化しにくく個人差があるものである。一方、個人と環境との関わりには個人の特性だけではなく環境から個人へのアプローチも想定される。しかし、個人が一時的に存在する環境の状態(ある特定の場に身を置いた一時的な状態)が過剰適応に及ぼす影響について検討した研究は、今のところほとんど行われていない。
3.「特性としての過剰適応傾向」と「状態としての過剰適応傾向」について
仮に過剰適応が個人の持つ特性によって生起した慢性的なものと、個人が存在する環境状態により生起した一時的なものに分類できるとするならば、過剰適応者に対する支援の仕方・治療方針は、いずれの過剰適応を持つのかにより異なってくるのではないか。つまり、過剰適応者に対する支援を行う前の課題として、過剰適応は個人の持つ特性と個人が存在する環境状態のいずれにより生じたものなのかを明らかにする必要性がある。
この個人の持つ特性と個人が存在する環境状態の類似概念としてSpielberger(1966)が提唱した「特性不安」と「状態不安」が挙げられる。彼は不安を、比較的安定したパーソナリティ特性である「特性不安」と一時的情動状態である「状態不安」に分類した。「特性不安」は外的要因としての原因がない不安であるのに対し、「状態不安」には原因があり、原因となっている状態でなくなると消える不安である。この分類は過剰適応にも同様に当てはまるのではないだろうか。
そこで本研究では、個人の持つ特性から来るもので外的要因としての原因がない過剰適応傾向を「特性としての過剰適応傾向」、個人が存在する環境状態が原因と考えられ、その状態でなくなると消える過剰適応傾向を「状態としての過剰適応傾向」として設定する。そしてSpielberger(1966)の「特性不安」・「状態不安」を参考に、過剰適応傾向は「特性としての過剰適応傾向」と「状態としての過剰適応傾向」に分類できると仮定し、過剰適応傾向を多面的に捉えることについての検討を行う。
なお、本研究では中学生における「状態としての過剰適応傾向」を測定するための環境状態として「対先生・対友人・授業中・家(在宅時)・部活動中」の5場面を選抜した。この5つの場面は中学生が関わる頻度や程度が高い人物や場面であると予想されるという理由から選抜した。中学生が頻繁に関わることが予想される家族を含めなかったのは、後に述べる家の場面で関わりがあると想定される人物と共通していたためである。
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