*考察*




 本研究の目的は、過剰適応傾向が影響を与えるストレス反応および学校適応感を基に、中学生を対象として過剰適応傾向を「特性としての過剰適応傾向」と「状態としての過剰適応傾向」に分類できるかの検討を行うことであった。過剰適応傾向をこれらに分類できると仮定し、特性的な項目が多く含まれていると考えられる青年期前期用過剰適応尺度(石津, 2006)を用いて「特性としての過剰適応傾向」を、この石津(2006)の青年期前期用過剰適応尺度の項目に場面を指定したものを用いて「状態としての過剰適応傾向」を測定し、それぞれの過剰適応傾向の特徴を見ていきながら検討を行った。また、学校適応感およびストレス反応には学校への適応感尺度(大久保, 2005)およびストレス反応を測定する項目(岡田, 2002および三浦, 2002)を用いて検討を行った。 







1.全体の結果

@特性としての過剰適応傾向と状態としての過剰適応傾向の関連について


 仮説の通り過剰適応傾向には、特性によるものと状態によるものがあると考えられ、それらがどのように関連するかを明らかにするために相関分析を用いて検討した。

 まず、特性としての過剰適応傾向尺度および状態としての過剰適応傾向尺度における尺度内の相関係数を用い、それぞれの尺度内の関連について検討した。特性としての過剰適応傾向において、7月度調査では『他者配慮』と『自己不全感』以外の全ての下位尺度間において有意な正の相関が見られ、11月度調査では全ての下位尺度間において有意な正の相関が見られた。7月度調査で『他者配慮』と『自己不全感』に有意な相関が見られなかったのは、『自己不全感』が『他者配慮』の、『他者配慮』が『自己不全感』の直接的および間接的な原因となるとは必ずしも言えないということが理由の1つとして考えられる。11月度調査の結果は、特性としての過剰適応傾向の『期待に沿う努力』・『自己不全感』・『自己抑制』・『他者配慮』・『人からよく思われたい欲求』はいずれの下位尺度も、過剰適応傾向を示していると言える。

 次に状態としての過剰適応傾向において、7月度調査では状態としての過剰適応傾向は、5種類いずれの変数においても5つの下位尺度内すべてにおいて互いに有意な正の相関が見られたが、11月度調査では「対先生場面」における過剰適応傾向の『自己抑制』と『人からよく思われたい欲求』では有意な相関が見られなかった。7月度調査の結果は、状態としての過剰適応傾向のいずれの下位尺度においても過剰適応傾向を示していると言える。11月度調査で「対先生場面」における過剰適応傾向の『自己抑制』と『人からよく思われたい欲求』に相関が見られなかったのは、対先生場面において『人からよく思われたい欲求』が『自己抑制』の直接的および間接的な原因となるとは必ずしも言えないということが理由の1つとして考えられる。

 続いて、特性としての過剰適応傾向と状態としての過剰適応傾向の下位尺度間の相関係数を用いて、特性としての過剰適応傾向と状態としての過剰適応傾向の関連を検討した。7月度調査において、ほとんどの下位尺度間において有意な相関を示したが、「対先生場面」における過剰適応傾向では、特性としての過剰適応傾向の下位尺度である『他者配慮』と「対先生場面」における過剰適応傾向の下位尺度である『自己不全感』は有意な相関ではなかった。「授業中」・「家(在宅時)」・「部活動中」における過剰適応傾向では、特性としての過剰適応傾向の下位尺度である『他者配慮』と「授業中」・「家(在宅時)」・「部活動中」における過剰適応傾向のそれぞれの下位尺度である『自己不全感』および『自己抑制』は有意な相関ではなかった。11月度調査において、「対先生場面」における過剰適応傾向では、特性としての過剰適応傾向の下位尺度である『自己不全感』および『自己抑制』と「対先生場面」における過剰適応傾向の下位尺度である『他者配慮』は有意な相関ではなかった。それ以外の変数、下位尺度間では有意な正の相関を示した。

 まず7月度調査の結果は、特性としての過剰適応傾向と状態としての過剰適応傾向は異なった側面を持っている可能性を示唆している。特性としての過剰適応傾向の『他者配慮』と「対先生場面」における過剰適応傾向の『自己不全感』に有意な相関が見られなかったのは、「対先生場面」における『自己不全感』が特性的な『他者配慮』の、特性的な『他者配慮』が「対先生場面」における『自己不全感』の直接的および間接的な原因となるとは必ずしも言えないということが理由の1つとして考えられる。特性としての過剰適応傾向の『他者配慮』と「授業中」・「家(在宅時)」・「部活動中」における過剰適応傾向の『自己不全感』および『自己抑制』において有意な相関が見られなかったのも同様の理由が考えられる。一方11月度調査の結果は、特性としての過剰適応傾向と状態としての過剰適応傾向は類似した面が多いことを示唆している。「対先生場面」における過剰適応傾向において、特性としての過剰適応傾向の下位尺度である『自己不全感』および『自己抑制』と「対先生場面」における過剰適応傾向の下位尺度である『他者配慮』が有意な相関を示さなかったのは、特性的な『自己不全感』および『自己抑制』が「対先生場面」における『他者配慮』の、「対先生場面」における『他者配慮』が特性的な『自己不全感』および『自己抑制』の直接的および間接的な原因となっているとは必ずしも言えないということが理由の1つとして考えられる。

 7月度調査と11月度調査の結果に違いが見られるのは、7月よりも11月の方が過剰適応傾向の特性的な側面と、状態的な側面の関連が強くなったためであると言える。

つぎへ→