A特性としての過剰適応傾向および状態としての過剰適応傾向と学校適応感およびストレス反応の関連
特性としての過剰適応傾向および状態としての過剰適応傾向と学校適応感およびストレス反応の関連を検討するために、相関分析および多変量回帰分析を用いて検討を行った。多変量回帰分析において、特性としての過剰適応傾向および状態としての過剰適応傾向の各下位尺度を独立変数、学校適応感およびストレス反応の各下位尺度を従属変数とした。
@. 特性としての過剰適応傾向と学校適応感およびストレス反応の関連
初めに、特性としての過剰適応傾向と学校適応感およびストレス反応の関連について、相関分析を用いた検討を行った。まず7月度調査において、学校適応感では『自己不全感』と『周りとの関係』および『心の安定』が有意な負の相関、『他者配慮』と『周りとの関係』が有意な正の相関を示し、ストレス反応との関連では、『期待に沿う努力』・『自己抑制』・『他者配慮』と『悲哀』、『自己不全感』と『攻撃』および『悲哀』がいずれも有意な正の相関を示した。
次に11月度調査において、学校適応感では『自己不全感』と『周りとの関係』および『心の安定』、『自己抑制』と『周りとの関係』が有意な負の相関を示し、ストレス反応との関連では、『期待に沿う努力』および『自己抑制』と『悲哀』、『自己不全感』と『攻撃』・『身体的反応』・『悲哀』がいずれも有意な正の相関を示した。
次に多変量回帰分析を行い、特性としての過剰適応傾向が学校適応感およびストレス反応に与える影響を検討した。まず7月度調査では、学校適応感において『自己不全感』は『周りとの関係』および『心の安定』に有意な負の影響を与えていたが、『他者配慮』は『周りとの関係』に有意な影響は与えていなかった。ストレス反応では『自己不全感』は『攻撃』および『悲哀』に有意な正の影響を与えていたが、『期待に沿う努力』・『自己抑制』・『他者配慮』は『悲哀』に有意な影響は与えていなかった。一方、相関分析では関連が見られなかったが、『他者配慮』は『身体的反応』に、『人からよく思われたい欲求』は『攻撃』に有意な負の影響を与えていた。
次に11月度調査では、学校適応感において『自己不全感』は『周りとの関係』および『心の安定』に有意な負の影響を与えていたが、『自己抑制』は『周りとの関係』に有意な影響は与えていなかった。一方、相関分析では関連が見られなかったが『他者配慮』は『周りとの関係』に有意な正の影響を与えていた。ストレス反応では、『自己不全感』は『攻撃』・『身体的反応』・『悲哀』に有意な正の影響を与えていたが、『期待に沿う努力』および『自己抑制』は『悲哀』に有意な影響を与えていなかった。一方、相関分析では関連が見られなかったが『他者配慮』が『攻撃』に有意な負の影響を与えていた。
7月度調査において、多変量回帰分析により他の変数による影響を統制したために相関分析では見ることができなかった関連が明らかになったと考えられる。これは11月度調査においても同様のことが言える。また、相関分析では関連が見られたが、多変量回帰分析では有意な結果が得られなかった『期待に沿う努力』・『自己抑制』・『他者配慮』が『悲哀』に、『他者配慮』が『周りとの関係』に与える影響に関しては、特性としての過剰適応傾向の下位尺度間および学校適応感・ストレス反応の下位尺度間の相関が関連していることが影響していると考えられる。『期待に沿う努力』および『自己抑制』と相関を示す『自己不全感』が『悲哀』に与える影響が強いために、また『他者配慮』が影響を与える『身体的反応』は『周りとの関係』および『悲哀』と強い相関を示すために、相関分析では表面的に有意な結果が見られたと考えられる。
11月度調査において、相関係数でのみ関連が見られた『期待に沿う努力』および『自己抑制』と『悲哀』、『自己抑制』と『周りとの関係』が多変量回帰分析において有意な結果が得られなかったのは、『期待に沿う努力』および『自己抑制』と相関を示す『自己不全感』が『周りとの関係』および『悲哀』に与える影響が強いために、相関分析では表面的に有意な結果が見られたと考えられる。
これらの結果についての考察を行う。
まず7月度調査を見ていく。『自己不全感』は学校適応感に負の影響を、ストレス反応の『悲哀』および『攻撃』に正の影響を与えていたことは、石津・安保(2008)が行った回帰分析結果とも一致し、概ね妥当な結果であると言える。一方、『人からよく思われたい欲求』が『攻撃』に負の影響を与えていたことは、先行研究(石津・安保, 2008)の結果と異なった。これは、個人が人からよく思われるための行動をした結果、自分に利益が得られたためにストレス(攻撃)を感じなかったこと、もしくはよく思われたいがためにストレス(攻撃)を制御した結果、ストレス(攻撃)が薄れたため負の影響が見られたのではないかと考えられる。また、『他者配慮』が『身体的反応』に負の影響を与えていたのは、他者のために行動した結果、自分に利益がもたらされるためにストレスを感じないためであると考えられる。
次に11月度調査を見ていく。7月度調査では見られなかった『自己不全感』が『身体的反応』、『他者配慮』が『周りとの関係』および『攻撃』に及ぼす影響が見られた。これは石津・安保(2008)が行った回帰分析結果とも一致し、概ね妥当な結果であると言える。
7月度調査と11月度調査の値を比較すると、ほとんどの箇所において、7月度調査よりも11月度調査の方が大きな影響を与えていることから、11月度調査の方が過剰適応傾向から学校適応感およびストレス反応に大きな影響を与えており、時期による構造の変化が見られたということが言える。
A. 「対友人場面」における過剰適応傾向と学校適応感およびストレス反応の関連
次に状態としての過剰適応傾向と学校適応感およびストレス反応の関連について、相関分析および多変量回帰分析を用いた検討を行った。
まず「対友人場面」における過剰適応傾向を検討していく。
初めに、相関分析を用いた検討を行った。7月度調査において、学校適応感との関連では『自己不全感』と『周りとの関係』および『心の安定』が有意な負の相関、ストレス反応との関連では、『期待に沿う努力』と『攻撃』・『身体的反応』・『悲哀』、『自己不全感』および『自己抑制』と『悲哀』、『他者配慮』および『人からよく思われたい欲求』と『身体的反応』および『悲哀』が有意な正の相関を示した。
次に11月度調査において、学校適応感との関連では『自己不全感』と『周りとの関係』および『心の安定』、『自己抑制』と『周りとの関係』が有意な負の相関を示し、ストレス反応との関連では、『期待に沿う努力』および『自己抑制』と『身体的反応』および『悲哀』、『自己不全感』と『攻撃』・『身体的反応』・『悲哀』、『他者配慮』と『悲哀』が有意な正の相関を示した。
次に多変量回帰分析を行い、「対友人場面」における過剰適応傾向が学校適応感およびストレス反応に与える影響を検討した。まず7月度調査において、学校適応感との関連では『自己不全感』は『周りとの関係』および『心の安定』に負の影響を与えていた。ストレス反応との関連では、『自己抑制』は『悲哀』に有意な負の影響を与えていたが、『期待に沿う努力』は『攻撃』・『身体的反応』・『悲哀』に、『自己不全感』は『悲哀』に、『他者配慮』および『人からよく思われたい欲求』は『身体的反応』および『悲哀』に有意な影響は与えていなかった。一方、相関分析では関連が見られなかったが、『人からよく思われたい欲求』が『攻撃』に有意な負の影響を与えていた。
次に11月調査において、学校適応感との関連では7月度調査と同じく『自己不全感』は『周りとの関係』および『心の安定』に負の影響を与えていたが、『自己抑制』は『周りとの関係』に有意な影響は与えていなかった。ストレス反応との関連では、『自己不全感』は『攻撃』および『悲哀』に有意な正の影響を与えていたが、『期待に沿う努力』および『自己抑制』は『身体的反応』および『悲哀』に、『自己不全感』は『身体的反応』に、『他者配慮』は『悲哀』に有意な影響は与えていなかった。一方、相関分析では関連が見られなかったが、『他者配慮』は『攻撃』に有意な負の影響を与えていた。
7月度調査において、相関分析においては関連が見られなかったが多変量回帰分析において関連が見られた部分に関しては、多変量回帰分析により他の変数による影響を統制したために関連が明らかになったと考えられる。これは11月度調査においても同様のことが言える。また、相関分析では関連が見られたが、多変量回帰分析の結果有意な結果が得られなかった『期待に沿う努力』と『攻撃』・『身体的反応』・『悲哀』、 『自己不全感』と『悲哀』、『他者配慮』および『人からよく思われたい欲求』と『身体的反応』および『悲哀』には、「対友人場面」における過剰適応傾向の下位尺度間および学校適応感・ストレス反応の下位尺度間の相関が関連していることが影響していると考えられる。『期待に沿う努力』・『自己不全感』・『他者配慮』・『人からよく思われたい欲求』と相関を示す『自己抑制』が『悲哀』に与える影響が強いために、また『期待に沿う努力』と相関を示す『人からよく思われたい欲求』が『攻撃』に与える影響が強いために相関分析では表面的に有意な結果が見られたと考えられる。『期待に沿う努力』・『他者配慮』・『人からよく思われたい欲求』と『身体的反応』の相関については、いずれも『自己抑制』および『人からよく思われたい欲求』との相関が強く、『自己抑制』および『人からよく思われたい欲求』がそれぞれ強い影響を与える『悲哀』および『攻撃』が、『身体的反応』と強い相関を示していたため、相関分析では表面的に有意な結果が見られたと考えられる。
11月調査において、相関分析でのみ関連が見られた『期待に沿う努力』と『身体的反応』および『悲哀』、『自己不全感』と『身体的反応』、『自己抑制』と『周りとの関係』・『身体的反応』・『悲哀』、『他者配慮』と『悲哀』が多変量回帰分析において有意な結果が得られなかったのは、「対友人場面」における過剰適応傾向の下位尺度間および学校適応感・ストレス反応の下位尺度間の相関が関連していることが影響していると考えられる。『期待に沿う努力』・『自己抑制』・『他者配慮』と相関を示す『自己不全感』が『周りとの関係』および『悲哀』に与える影響が強いために、『期待に沿う努力』・『自己抑制』・『他者配慮』と『悲哀』、『自己抑制』と『周りとの関係』の相関係数では表面的に有意な結果が見られたと考えられる。また、『期待に沿う努力』および『自己抑制』と相関が強い『自己不全感』が強い影響を及ぼす『心の安定』・『攻撃』・『悲哀』、もしくは『他者配慮』が強い影響を及ぼす『攻撃』、これらと『身体的反応』は強い相関を示しているため、『期待に沿う努力』および『自己抑制』と『身体的反応』の相関係数では表面的に有意な結果が見られたと考えられる。さらに、『自己不全感』と『身体的反応』が相関を示したのは、『自己不全感』が強い影響を及ぼす『攻撃』および『悲哀』と強い相関を示していたためであると考えられる。
結果についての考察を行う。
まず7月度調査を見ていく。『自己抑制』が『悲哀』に負の影響を与えていたことは先行研究(石津・安保, 2008)の結果と異なった。負の影響を与えていたのは、個人が自分の気持ちや欲求などを抑えた結果、利益が得られたためにストレス(悲哀)が感じられなかったことが理由の1つとして考えられる。
次に11月度調査を見ていく。11月度調査では、7月度調査に見られなかった『自己不全感』が『攻撃』および『悲哀』に与える影響、『他者配慮』が『攻撃』に与える影響が見られた。
7月度調査と11月度調査の値を比較すると、「対友人場面」における過剰適応傾向においてもほとんどの箇所において、7月度調査よりも11月度調査の方が大きな影響を与えていることから、11月度調査の方が過剰適応傾向から学校適応感およびストレス反応に大きな影響を与えており、時期による構造の変化が見られたということが言える。
B. 「対先生場面」における過剰適応傾向と学校適応感およびストレス反応の関連
「対先生場面」における過剰適応傾向を検討していく。初めに、相関分析を用いた検討を行った。7月度調査において、学校適応感との関連では、『自己不全感』と『周りとの関係』および『心の安定』が有意な負の相関を、『他者配慮』および『人からよく思われたい欲求』と『周りとの関係』が有意な正の相関を示した。ストレス反応との関連では、『自己抑制』と『身体的反応』、『期待に沿う努力』・『自己不全感』・『自己抑制』・『他者配慮』・『人からよく思われたい欲求』と『悲哀』がいずれも有意な正の相関を示した。
次に11月度調査において、学校適応感との関連では、『自己不全感』と『周りとの関係』および『心の安定』、『自己抑制』と『周りとの関係』が有意な負の相関、『人からよく思われたい欲求』と『周りとの関係』および『心の安定』が有意な正の相関を示した。ストレス反応との関連では、『自己不全感』と『攻撃』および『悲哀』、『自己抑制』と『悲哀』が有意な正の相関を示した。
次に多変量回帰分析を行い、「対先生場面」における過剰適応傾向が学校適応感およびストレス反応に与える影響を検討した。まず7月度調査において、学校適応感との関連では『自己不全感』が『心の安定』に有意な負の影響、『人からよく思われたい欲求』が『周りとの関係』に有意な正の影響を与えていたが、『自己不全感』および『他者配慮』は『周りとの関係』に有意な影響は与えていなかった。一方、相関分析で関連は見られなかったが、『自己抑制』は『周りとの関係』に有意な負の影響を与えていた。ストレス反応との関連では『自己不全感』および『他者配慮』は『悲哀』に有意な正の影響を与えていたが、『期待に沿う努力』および『人からよく思われたい欲求』は『悲哀』に、『自己抑制』は『身体的反応』および『悲哀』に有意な影響は与えていなかった。一方、相関分析で関連は見られなかったが、『人からよく思われたい欲求』は『攻撃』に有意な負の影響を与えていた。
次に11月調査において、学校適応感との関連では『自己不全感』が『周りとの関係』および『心の安定』に有意な負の影響を与えていたが、『自己抑制』は『周りとの関係』に、『人からよく思われたい欲求』は『周りとの関係』および『心の安定』に有意な影響は与えていなかった。ストレス反応との関連では『自己不全感』は『攻撃』および『悲哀』に有意な正の影響を与えていたが『自己抑制』は『悲哀』に有意な影響は与えていなかった。一方、相関分析で関連は見られなかった『自己抑制』が『攻撃』、『人からよく思われたい欲求』が『身体的反応』に有意な負の影響、『他者配慮』が『攻撃』に有意な正の影響を与えていた。
7月度調査において、相関分析では関連が見られなかったが多変量回帰分析で関連が見られた部分に関しては、多変量回帰分析により他の変数による影響を統制したために関連が明らかになったと考えられる。これは11月度調査においても同様のことが言える。また、相関分析では関連が見られたが、多変量回帰分析の結果有意な結果が得られなかった『自己不全感』および『他者配慮』と『周りとの関係』、『期待に沿う努力』および『人からよく思われたい欲求』と『悲哀』、『自己抑制』と『身体的反応』および『悲哀』には、「対先生場面」における過剰適応傾向の下位尺度間および学校適応感・ストレス反応の下位尺度間の相関が関連していることが影響していると考えられる。『自己不全感』および『他者配慮』と相関を示す『自己抑制』および『人からよく思われたい欲求』が『周りとの関係』に与える影響が強いために、また『期待に沿う努力』・『自己抑制』・『人からよく思われたい欲求』と相関を示す『自己不全感』および『他者配慮』が『悲哀』に与える影響が強いために『自己不全感』および『他者配慮』と『周りとの関係』、『期待に沿う努力』・『自己抑制』・『人からよく思われたい欲求』と『悲哀』の相関係数では表面的に有意な結果が見られたと考えられる。また、『自己抑制』と『身体的反応』が相関を示したのは、『自己抑制』と強い相関がある『他者配慮』が強い影響を与える『悲哀』、『人からよく思われたい欲求』が強い影響を与える『攻撃』が『身体的反応』と強い相関を示していたからであると考えられる。
11月度調査において、相関分析でのみ関連が見られた『自己抑制』と『周りとの関係』および『悲哀』、『人からよく思われたい欲求』と『周りとの関係』および『心の安定』が多変量回帰分析において有意な結果が得られなかったのは、『自己抑制』および『人からよく思われたい欲求』と相関を示す『自己不全感』が『周りとの関係』・『心の安定』・『悲哀』に与える影響が強いために、相関分析では表面的に有意な結果が見られたと考えられる。
結果についての考察を行う。
まず7月度調査を見ていく。『自己抑制』が『周りとの関係』に負の影響、『人からよく思われたい欲求』が『周りとの関係』に正の影響を与えていたことは先行研究(石津・安保, 2008)の結果と一致し、概ね妥当な結果が得られたと言える。一方『他者配慮』が『悲哀』に正の影響を与えていたことは先行研究(石津・安保, 2008)と異なった。正の影響を与えたのは、他者への配慮を優先して行い個人が自分の気持ちや欲求などを抑えることによるストレス(悲哀)、もしくはその行為により利益が得られなかったために生じたストレス(悲哀)があったためであると考えられる。
次に、11月度調査を見ていく。11月度調査では、7月度調査に見られなかった『自己不全感』が『周りとの関係』および『攻撃』、『自己抑制』および『他者配慮』が『攻撃』に与える影響が見られた。『自己抑制』および『他者配慮』が『攻撃』に対して前者は負の影響を、後者は正の影響を及ぼしていた点は先行研究(石津・安保, 2008)と異なった。『自己抑制』が『攻撃』に負の影響を及ぼしたのは、個人が自分の気持ちや欲求などを抑えた結果、利益が得られたためにストレス(攻撃)を感じなかったためであると考えられる。一方『他者配慮』が『攻撃』に正の影響を及ぼしたのは、他者への配慮を優先して行い、個人が自分の気持ちや欲求などを抑えることによるストレス(攻撃)、もしくはその行為により利益が得られなかったために生じたストレス(攻撃)があったためであると考えられる。
7月度調査と11月度調査の値を比較すると、「対先生場面」における過剰適応傾向においてもほとんどの箇所において、7月度調査よりも11月度調査の方が大きな影響を与えていることから、11月度調査の方が過剰適応傾向から学校適応感およびストレス反応に大きな影響を与えており、時期による構造の変化が見られたということが言える。
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