卒業論文篠田侑里香

③過剰適応傾向の特徴

ⅰ. 過剰適応傾向の類型の検討

　特性としての過剰適応傾向および状態としての過剰適応傾向（5種類）それぞれにおいて、過剰適応傾向の類型を明らかにし、それぞれの特徴を見るために7月度調査の過剰適応傾向得点の結果を基にクラスター分析を行った。その結果、特性としての過剰適応傾向では4つのクラスターを見出し、“外的側面型”・“過剰適応傾向-高群型”・“過剰適応傾向-中群型”・“過剰適応傾向-低群型”と命名した。状態としての過剰適応傾向では5種類いずれの場面においても3つのクラスターを見出し、“過剰適応傾向-高群型”・“過剰適応傾向-中群型”・“過剰適応傾向-低群型”と命名した。

　各過剰適応傾向の類型の特徴を比較し、検討していく。

　まず過剰適応傾向間のクラスター別の平均値の比較を行った結果、「対友人場面」における過剰適応傾向の平均値は“過剰適応傾向-高群型”・“過剰適応傾向-中群型”・“過剰適応傾向-低群型”のいずれにおいても他の過剰適応傾向に比べやや高い傾向にあった。これは、「対友人場面」における過剰適応傾向の全体的な位置付けは特性としての過剰適応傾向および他の状態としての過剰適応傾向よりも高く、中学生は友人との関わりを他の場面に比べて重要視していることを表していると考えられる。

　次に過剰適応傾向間のクラスター別の人数を比較した結果、特性としての過剰適応傾向においては“過剰適応傾向-高群型”および“過剰適応傾向-中群型”に人数の偏りはそれほど見られなかったが、状態としての過剰適応傾向ではいずれも“過剰適応傾向-中群型”に人数が集中していた。

　これらの結果から、特性としての過剰適応傾向および状態としての過剰適応傾向、また状態としての過剰適応間においても類型の特徴は異なると言える。　

ⅱ. 各クラスターの過剰適応傾向と学校適応感およびストレス反応の関連

　各クラスターの特徴をさらに検討するために、7月度調査のそれぞれの過剰適応傾向のクラスターを独立変数、学校への適応感尺度の下位尺度得点とストレス反応を測る尺度の下位尺度得点を従属変数とした分散分析と、TukeyのHSD法による多重比較を行った。結果を基に各過剰適応傾向における各クラスターの特徴を検討していく。

　まずは特性としての過剰適応傾向から見ていく。分散分析および多重比較の結果、『周りとの関係』において“外的側面型”と“過剰適応傾向-中群型”、“過剰適応傾向-高群型”と“過剰適応傾向-中群型”の間に有意な差が見られ（F(3,123)=6.308, p<.01）、『悲哀』においては、“過剰適応傾向-高群型”と“外的側面型”に有意な差が見られた（F(3,123)=4.271, p<.01）。

　まず“外的側面型”に関して、学校適応感の下位尺度である『周りとの関係』では平均値が高く、ストレス反応の下位尺度である『悲哀』では平均値は低かったことは石津・安保（2008）で示されている、内的側面が低く外的側面がなされる群の特徴と一致し、内的側面が低い場合であっても、外的側面を構成する『他者配慮』および『自己不全感』・『人からよく思われたい欲求』・『期待に沿う努力』がなされる場合、学校適応感は保たれるという指摘を支持する結果であった。

　次に“過剰適応傾向-高群型”に関して、『周りとの関係』および『悲哀』において平均値は高かった。つまりこの群は、過剰適応傾向が適応的に作用しているが、その陰ではストレスが存在するということが言える。これも同じく石津・安保（2008）で示されている内的側面および外的側面が高い群の特徴に一致し、外的側面が高くとも内的側面が高い場合、ストレス反応は高くなるという指摘を支持する結果であった。

　さらに“過剰適応傾向-中群型”に関して、『周りとの関係』においてかなり平均値は低く、有意な結果は得られなかったがストレス反応の平均値はやや高かった。この点から、“過剰適応傾向-高群型”の生徒よりも“過剰適応傾向-中群型”の生徒の方が、学校への適応度は低いということが分かる。これは、“過剰適応傾向-高群型”では過剰適応傾向が適応的に作用するのに対し、“過剰適応傾向-中群型”では過剰適応傾向が適応的に作用していないためであると考えられる。

　最後に“過剰適応傾向-低群型”に関して、有意な結果は得られなかったが、学校適応感は4クラスターの中で最も高く、ストレス反応は低かった。この結果は、先行研究（石津・安保, 2008）で述べられている内的側面が低く外的側面も低い群の特徴である学校適応感とストレス反応が共に低いという結果と異なったが、ストレス反応が低く、学校適応感が保たれるのは想定される概念であるため、妥当であると考えられる。

　

　次に「対友人場面」における過剰適応傾向について見ていく。分散分析および多重比較の結果、『身体的反応』においては“過剰適応傾向-中群型”と“過剰適応傾向-低群型”の間に有意な差が見られ（F(2,124)=3.660, p<.05）、『悲哀』においては“過剰適応傾向-中群型”および“過剰適応傾向-高群型”と“過剰適応傾向-低群型”に有意な差が見られた（F(2,124)=11.752, p<.001）。

　まず“過剰適応傾向-低群型”に関して、『身体的反応』および『悲哀』において最も平均値が低く、有意な結果は得られなかったが学校適応感は3群の中で最も高かった。これは特性としての過剰適応傾向の“過剰適応傾向-低群型”の特徴と同様のことが言え、ストレス反応が低く、学校適応感が保たれるのは想定される概念であるため、妥当であると考えられる。

　次に“過剰適応傾向-中群型”に関して、『身体的反応』および『悲哀』の平均はやや高く、有意な結果は得られなかったが学校適応感は3群の中で最も低かった。これに関しても、特性としての過剰適応傾向の“過剰適応傾向-中群型”の特徴と同様のことが言える。

　さらに“過剰適応傾向-高群型”に関して、『悲哀』において最も平均値は高く、有意な結果は得られなかったが学校適応感において高い平均値を示した。これに関しても、特性としての過剰適応傾向の“過剰適応傾向-高群型”の特徴と同様のことが言え、この群は過剰適応傾向が適応的に作用しているが、その陰ではストレスが存在するということが考えられる。

　

　「対先生場面」における過剰適応傾向について見ていく。分散分析および多重比較の結果、『悲哀』において“過剰適応傾向-高群型”と“過剰適応傾向-中群型”および“過剰適応傾向-低群型”の間に有意な差が見られた（F(2,124)=5.911, p<.01）。

　まず“過剰適応傾向-中群型”に関して、『悲哀』の平均値は中程度で、有意な結果は見られなかったが学校適応感でも中程度であった。

　次に“過剰適応傾向-高群型”に関して、『悲哀』において最も平均値は高く、有意な結果は見られなかったが学校適応感においても最も高い平均値を示した。これに関して、今まで見てきた過剰適応傾向の“過剰適応傾向-高群型”の特徴と同様に、この群は過剰適応傾向が適応的に作用しているが、その陰ではストレスが存在するということが考えられる。

　さらに“過剰適応傾向-低群型”に関して、『悲哀』の平均は低かったが、ストレス反応全体の平均値は中程度で、有意な結果は得られなかったが学校適応感においても平均値は中程度であった。

　以上より、「対先生場面」における過剰適応傾向では“過剰適応傾向-中群”と“過剰適応傾向-低群”の特徴が似通っており、それほど低い学校適応感およびストレス反応の平均値を示す群はなかったこと、また高い過剰適応傾向にある“過剰適応傾向-高群”に属する生徒は学校適応感およびストレス反応においてかなり高い値を示したことから、「対先生場面」は比較的ストレス反応および学校適応感を感じやすい場面である可能性が考えられる。

　

　「授業中」における過剰適応傾向について見ていく。分散分析および多重比較の結果、『悲哀』において“過剰適応高群型”と“過剰適応傾向-中群型”の間に有意な差が見られた（F(2,124)=3.170, p<.05）。

　まず“過剰適応傾向-中群型”に関して、『悲哀』を含むストレス反応の平均値は低く、有意な結果は見られなかったが学校適応感において中程度の平均を示した。この点で、今まで見てきた過剰適応傾向における“過剰適応傾向-中群型”の特徴と異なったが、ストレス反応が低いという点では特性としての過剰適応傾向および「対友人場面」における過剰適応傾向の“過剰適応傾向-低群型”の特徴に近く、ストレス反応が低く、学校適応感が少なくとも中程度保たれるのは想定される概念であるため、妥当であると考えられる。

　次に“過剰適応傾向-高群型”に関して、『悲哀』を含めたストレス反応の平均値は高く、有意な結果は見られなかったが学校適応感ではやや低い値を示した。つまりこの群では、過剰適応傾向が非適応的に作用していると言える。この結果は、石津・安保（2008）の外的側面が高くとも内的側面が高い場合、ストレス反応は高くなるという指摘を支持する結果であった。

　さらに“過剰適応傾向-低群型”に関して有意な結果は見られなかったが、学校適応感は高く、ストレス反応は中程度であった。これに関しても、過剰適応傾向が適応的に作用しているためだと考えられる。

　「家（在宅時）」における過剰適応傾向について見ていく。分散分析および多重比較の結果、『身体的反応』において“過剰適応傾向-高群型”と“過剰適応傾向-中群型”の間（F(2,124)=3.546, p<.05）、『悲哀』においては“過剰適応傾向-高群型”と“過剰適応傾向-中群型”および“過剰適応傾向-低群型”の間に有意な差が見られた（F(2,124)=6.974, p<.01）。

　まず、“過剰適応傾向-中群型”から見ていく。『身体的反応』および『悲哀』においてやや低い平均値、有意な結果は見られなかったが学校適応感においてやや低い平均値を示した。

　“過剰適応傾向-高群型”に関しては、『身体的反応』および『悲哀』の平均値はかなり高く、有意な結果は見られなかったが学校適応感も高い平均値を示していた。これに関して、特性としての過剰適応傾向や友人における過剰適応傾向の“過剰適応傾向-高群”の特徴と同様のことが言え、この群は過剰適応傾向が適応的に作用しているが、その陰ではストレスが存在するということが考えられる。　

　“過剰適応傾向-低群型”に関して『悲哀』は低い平均値を示したが、ストレス反応全体の平均値は中程度であり、有意な結果は見られなかったが学校適応感では高い平均値を示し、「授業中」における過剰適応傾向における“過剰適応傾向-低群型”の特徴と似通った。これに関しても、過剰適応傾向が適応的に作用しているためだと考えられる。

　「部活動中」における過剰適応傾向について見ていく。分散分析および多重比較の結果、『身体的反応』において“過剰適応傾向-高群型”と“過剰適応傾向-中群型”の間（F(2,124)=4.776, p<.05）、『悲哀』において“過剰適応傾向-高群型”と“過剰適応傾向-中群型”の間に有意な差が見られた（F(2,124)=6.001, p<.01）。

　まず“過剰適応傾向-高群型”に関して、『身体的反応』および『悲哀』において高い平均値を、有意な結果は見られなかったが学校適応感において中程度の平均値を示していた。つまり、過剰適応傾向が適応的に作用している場合と非適応的に作用している場合があるのではないかと考えられる。この結果も、石津・安保（2008）の外的側面が高くとも内的側面が高い場合、ストレス反応は高くなるという指摘を支持する結果であった。

　“過剰適応傾向-中群型”に関して、『身体的反応』および『悲哀』に関して低い平均値を、有意な結果は得られなかったが学校適応感において中程度の平均値が示された。ストレス反応が低いという点では特性としての過剰適応傾向および「対友人場面」における過剰適応傾向の“過剰適応傾向-低群型”の特徴に近く、ストレス反応が低く、学校適応感が少なくとも中程度保たれるのは想定される概念であるため、妥当であると考えられる。

　“過剰適応傾向-低群型”では有意な結果は得られなかったが、ストレス反応全体の平均は中程度で学校適応感においても平均は中程度であった。

　以上の結果より、どの過剰適応傾向においても“過剰適応傾向-高群型”に属する生徒は高いストレス反応を示しており、石津・安保（2008）の外的側面が高くとも内的側面が高い場合、ストレス反応は高くなるという指摘を支持する結果になった。学校適応感に関しては、過剰適応傾向が適応的に作用している場合と非適応的に作用している場合があると考えられるため、過剰適応傾向によって結果は異なったと言える。

　“過剰適応傾向-中群型”および“過剰適応傾向-低群型”においては、全てに共通する特徴は見られず、それぞれの過剰適応傾向によって特徴は異なった。これはそれぞれの場面によって、関わる人・場所・状況などの背景が異なること、過剰適応傾向が学校適応感およびストレス反応に与える影響の程度は過剰適応傾向の種類によって異なっていたことなどから、同じ程度の過剰適応傾向に属する群であっても、過剰適応傾向の種類によってストレスや学校適応感の程度は異なると考えられる。

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