卒業論文篠田侑里香

ⅲ. “過剰適応傾向-高群型”の特徴について

　過剰適応傾向の特徴をさらに明らかにするために、“過剰適応傾向-高群型”・“過剰適応傾向-中群型”・“過剰適応傾向-低群型”別に注目し特徴を検討していく。

　まずは“過剰適応傾向-高群型”について見ていく。初めに時期による変化を見るために、各過剰適応傾向の“過剰適応傾向-高群型”の生徒の7月度調査と11月度調査の過剰適応傾向得点の平均値および標準偏差をt検定により比較した。その結果、特性としての過剰適応傾向においては『自己抑制』（t(29)=3.61, p<.01）、「対友人場面」における過剰適応傾向においては『他者配慮』（t(16)=2.18, p<.05）、「家（在宅時）」における過剰適応傾向においては『人からよく思われたい欲求』（t(14)=2.74, p<.05）で有意な差が見られた。いずれにおいても7月度調査の方が11月度調査よりも平均値は、高くなっていたことから、“過剰適応傾向-高群型”においては7月度の方がより高い過剰適応傾向を示していたことが分かる。

　次に、特性としての過剰適応傾向の生徒は、どのような場面においても過剰適応傾向が高いという本研究における仮説を検討するため、特性としての過剰適応傾向における“過剰適応傾向-高群型”の中でも特に、特性としての過剰適応傾向で“過剰適応傾向-高群型”に属する生徒のうち、状態としての過剰適応傾向（5種類）全てにおいても“過剰適応傾向-高群型”に属した生徒に注目し、検討していく。

　まずこの条件に該当する生徒の人数を見てみると、特性としての過剰適応傾向において“過剰適応傾向-高群型”に属する生徒全体の38.9％であった。この結果から、特性としての過剰適応傾向の生徒は、どのような場面においても過剰適応傾向が高いということは必ずしも言えないことが分かる。これは、特性としての過剰適応傾向がたとえ高い生徒であっても、環境からの影響が強い場面に出くわした場合、特性よりも状態による影響が優先される場合があるということを意味していると考えられる。しかし、“過剰適応傾向-高群型”の生徒のうち、約4割の生徒が全ての場面における過剰適応傾向で高い値を示していたことは、この仮説が成り立っている可能性があると言うことを意味している。

　さらに、この仮説の条件に該当する生徒の7月度調査および11月度調査の平均値を比較し、時期による変化を見た。その結果、それぞれの過剰適応傾向においてわずかな変化は見られたが、いずれの変数においても有意な差は見られなかった。これは、特性としての過剰適応傾向で“過剰適応傾向-高群型”に属する生徒のうち、状態としての過剰適応傾向全てにおいても“過剰適応傾向-高群型”に属した生徒は、特性からの影響が強いため、根本的には場面だけでなく時期によっても過剰適応傾向の程度はなかなか変化しにくいものであるということを表している。

ⅳ. “過剰適応傾向-低群型”および“過剰適応傾向-中群型”の特徴について

　次に“過剰適応傾向-低群型”および“過剰適応傾向-中群型”の生徒について見ていく。初めに時期による変化を見るために、各過剰適応傾向の“過剰適応傾向-低群型”および“過剰適応傾向-中群型”の生徒の7月度調査と11月度調査の過剰適応傾向得点の平均値および標準偏差をt検定により比較した。その結果、まず“過剰適応傾向-低群型”では特性としての過剰適応傾向においては有意な差は見られなかった。状態としての過剰適応傾向においては、「対先生場面」における過剰適応傾向において『自己抑制』（t(19)=2.31, p<.05）、「授業中」における過剰適応傾向において『期待に沿う努力』（t(12)=2.42, p<.05）、『自己不全感』（t(12)=2.19, p<.05）、『他者配慮』（t(12)=2.35, p<.05）、『人からよく思われたい欲求』（t(12)=2.38, p<.05）、「家（在宅時）」における過剰適応傾向において、『期待に沿う努力』（t(32)=3.66, p<.001）、『自己不全感』（t(32)=2.97, p<.01）、『自己抑制』（t(32)=2.89, p<.01）、『他者配慮』（t(32)=2.05, p<.05）、『人からよく思われたい欲求』（t(32)=2.37, p<.05）で有意な差が見られた。いずれにおいても11月度調査の方が7月度調査よりも平均値は高くなっていたことから、“過剰適応傾向-低群型”では11月の方が過剰適応傾向の値が上昇したということが分かる。

　一方“過剰適応傾向-中群型”では、特性としての過剰適応傾向においては『人からよく思われたい欲求』（t(26)=4.56, p<.001）、状態としての過剰適応傾向においては「授業中」における過剰適応傾向において『自己不全感』（t(60)=2.23, p<.05）および『自己抑制』（t(60)=2.10, p<.05）で有意な差が見られた。いずれにおいても11月度調査の方が7月度調査よりも平均値は高くなっていたことから“過剰適応傾向-中群型”では11月の方が過剰適応傾向の値が上昇したことが分かる。

　次に、状態としての過剰適応傾向では場面により過剰適応傾向の程度が異なるという本研究における仮説を検討するため、特性としての過剰適応傾向であるとは考えにくい “過剰適応傾向-低群型”および“過剰適応傾向-中群型”の生徒の中で、状態としての過剰適応傾向の特定場面において“過剰適応傾向-高群型”に属した生徒に注目し、検討していく。

　まずこの条件に該当する生徒の人数を見てみると、“過剰適応傾向-低群型”の中で該当する生徒は存在せず、彼らのうちほとんどの生徒が全ての場面において“過剰適応傾向-低群型”に属していた一方で、“過剰適応傾向-中群型”の中で該当する生徒は“過剰適応傾向-中群型”に属する生徒の16.7％であった。この結果から、状態としての過剰適応傾向はそれほど多くみられる訳ではないが、それが見られた生徒の中で場面により過剰適応傾向の程度は異なっていたため、仮説は立証されたと言える。

　状態としての過剰適応傾向を示す生徒がほとんど見られなかったのは、特性としての過剰適応傾向において“過剰適応傾向-低群型”であった生徒はほとんどの全ての場面において“過剰適応傾向-低群型”に属していたこと、特性としての過剰適応傾向において“過剰適応傾向-中群型”に属する生徒のうち他の場面においても“過剰適応傾向-中群型”に属する生徒が多かったことなどから、過剰適応傾向が低いもしくは中程度という特性が生徒に存在していたため、ほとんど全ての場面において状態の変化に関わらず、低いもしくは中程度の過剰適応傾向を示していたのではないかと考えられる。

　さらに、この仮説の条件に該当する生徒の7月度調査および11月度調査の平均値を比較し、時期による変化を見た。その結果、「家（在宅時）」における過剰適応傾向において『自己抑制』（t(3)=3.81, p<.05）に有意な差が見られ、7月度調査よりも11月度調査の方が平均値は高くなった。これ以外に有意な差は見られなかったため、時期による変化はそれほど見られなかったと言える。

　また、7月度調査において「授業中」における過剰適応傾向で“過剰適応傾向-高群型”に属していた生徒4人のうち、3名は11月度調査においても「授業中」における過剰適応傾向で“過剰適応傾向-高群型”に属していた。また、7月度調査において「部活動中」における過剰適応傾向で“過剰適応傾向-高群型”に属していた生徒2名は、いずれも11月度調査においても“過剰適応傾向-高群型”に属していた。この結果から、特性としての過剰適応傾向で“過剰適応傾向-中群型”に属する生徒のうち、状態としての過剰適応傾向の一部の変数において“過剰適応傾向-高群型”に属する生徒は、7月と11月の2期において同じ場面で状態としての過剰適応傾向を示していたことが分かる。ここから、状態としての過剰適応傾向は、一度生じると変化しにくいものであるということが言え、特性的な側面も含んでいるということが分かった。　

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