【問題と目的】


1.はじめに
 私たちは日々,社会の中で多くの他者と相互に関わり合いながら生活している。相手や状況に合わせて自分自身の言動や在り方を選択し,様々な場面でより適応的に,適切なコミュニケーションをしながら生きていこうと行動している。 現代社会においては,コミュニケーションの場は,時代の流れと共に,直接的で対面的なものだけでなく,電話やメール,インターネットといった間接的で非対面の状況や場面にも広がってきている。近年では,スマートフォンの普及(2012年頃から)と共に,携帯メールに変わる新たなコミュニケーションツールとして,特に若い人たちの間から”LINE”が広く普及してきている。LINEとは,いわゆるソーシャルネットワークサービス(SNS)の一つで,簡単に言えば無料のメールサービスであるが,携帯メールと違い,チャットのようにスマートフォンの画面上でやりとりの流れがそのまま見える手軽なコミュニケーションツールである。

 ところで,このLINEが普及するにつれて,コミュニケーション上いろんな問題が生まれてきている。授業中や他にしなければならないことがある中でもすぐに返信をしようとしたり,思い通りにコミュニケーションが続かなかったことを理由に相手をいじめたりするといった問題が挙げられる。特に若い人たちの間でトラブルになることが多く,社会問題化している。これらの問題の根底に何があるのか,コミュニケーションのあり方として,本研究では,対人関係上の適応の問題として考えてみようと思う。

 適応とは,一般には,その人が生活し行動する社会のなかにうまく順応していくことを指しているが,もう少し詳しく見ると,社会的・文化的環境への適応を意味する「外的適応」と,心理的な安定や満足といった適応を意味する「内的適応」が調和した状態とされている(北村,1965)。しかし,時に適応が行き過ぎる(適応しようと強く自分に働きかけてしまう)ことで「過剰適応」という不適応状態になることがある。石津(2006)によると,過剰適応とは「環境からの要求や期待に個人が完全に近い形で従おうとすることであり,内的な欲求を無理に抑圧してでも,外的な期待や要求に答える努力を行うこと」と定義されている。さらに,石津・安保(2008)によって,過剰適応は「外的適応の過剰さ」と「内的適応の低下」の二要因に分けられている。つまり,過剰適応とは,個人が「内的適応」を無理に抑圧してでも,「外的適応」をしようとする状態のことである。

 翻って,常日頃LINEをやっている人たちのなかに,日常のきわめて重要なコミュニケーション手段として使っている人たちのなかに,そのコミュニケーションネットワークのなかで適応するために,非常に神経を使っている人たちが一定以上いるのではないかと推測する。その人たちは,そのネットワークのなかで適応しようとして,さらに過剰適応の状態になってしまっている人たちがいると考えられるのではないか。 そこで,本研究では,「LINE」でのコミュニケーションと過剰適応との関連性について検討する。

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