―予備調査―
  【結果】



1.パズル解決課題時におけるFSS尺度の因子分析


  すべての項目において平均値、標準偏差を算出した。その結果、いずれの項目においても天井効果、フロア効果はみられなかった。
  次に、ペンシルパズル、ジグソーパズル、タングラム、それぞれで主因子法・プロマックス回転で探索的因子分析をおこなった。2因子に.40以上負荷していた項目(4,8,11,13,21,23,26項目)に関しては削除した。その結果、5因子解を抽出した(Table 1〜3)。
  第1因子は、自分自身の能力にどの程度自信があるのか、課題に対してうまく対応することができるのかを答える内容であることから因子名を「能力への自信」とする。第2因子は自分がどう行動したいのか、何を目的としているのかを答える内容であることから因子名を「目標意識」とする。第3因子は自分の意識が集中しているのかということを答える内容であることから因子名を「集中」とする。第4因子は課題に取り組んでいる時の自分自身の快感情について答える内容であることから因子名を「楽しさ・喜び」とする。第5因子は課題に取り組んでいる時の自分自身の時間に対する意識について答える内容であることから因子名を「時間意識」とする。因子名は3種類のパズルにおいてすべて共通のものとする。
  各因子に絶対値で.40以上の負荷を示した項目を合算して下位尺度を構成した。また、パズルの種類ごとにFSS尺度の下位尺度のCronbachのα係数を算出した。能力の自信ではペンシルパズルがα=.899、ジグソーパズルがα=.917、タングラムがα=.941であった。目標意識ではペンシルパズルがα=.862、ジグソーパズルがα=.899、タングラムがα=.940であった。集中ではペンシルパズルがα=.878、ジグソーパズルがα=.914、タングラムがα=.932であった。楽しさ・喜びではペンシルパズルがα=.853、ジグソーパズルがα=.902、タングラムがα=.883であった。時間意識ではペンシルパズルがα=.789、ジグソーパズルがα=.806、タングラムがα=.899であった。

ペンシルパズルのFSS尺度因子分析結果
ジグソーパズルのFSS尺度因子分析結果
タングラムのFSS尺度因子分析結果

2.FSS尺度得点の比較


  パズルの種類別にFSS尺度の下位尺度得点に差があるかを検討するために、各種類のFSS尺度の下位尺度ごとについて1要因3水準の分散分析によって比較した(Table 4)。その結果、目標意識のみ有意な差がみられた(F(2,370)=12.28, p< .001)。多重比較法(Tukey法)の結果、ペンシルパズルとジグソーパズル、ジグソーパズルとタングラムの間に有意な差がみられた(p< .001, p< .05)。

パズルの種類ごとのFSS下位尺度の平均値および標準偏差

3.パズルごとの頻度とFSS尺度得点の比較


  質問紙においてパズルの種類ごとそのパズルに取り組む頻度をきく項目である「この課題によく取り組む」を5件法で測定した。「非常にあてはまる」、「ややあてはまる」と答えた人を高群、「どちらともいえない」と答えた人を中群、「あまりあてはまらない」、「全くあてはまらない」と答えた人を低群とした。パズルに取り組む頻度がフロー体験に影響を及ぼしているかを検討するために、FSSの下位尺度得点とパズルの種類と頻度による2要因分散分析をおこなった。その結果、【能力への自信】、【目標への挑戦】、【集中】、【楽しさ・喜び】、【時間意識】のすべての下位尺度において交互作用に有意な差はみられなかった。そのため、パズルの種類別にFSSの下位尺度得点とパズルの頻度高中低群による1要因3水準の分散分析をおこなった(Table 5~7)。
  その結果、3種類すべてのパズルにおいて、すべてのFSS下位尺度において高群と低群の間に有意な差がみられた。【楽しさ・喜び】においては、3種類すべてのパズルにおいて高群、中群、低群のすべての群間に有意な差がみられた(ペンシルパズル:F(2,158)=57.44, p< .001, ジグソーパズル:F(2,148)=85.26, p< .001, タングラム:F(2,58)=37.58, p< .001 )。

ペンシルパズルの取り組む頻度ごとのFSS下位尺度の平均値と標準偏差
ジグソーパズルに取り組む頻度ごとのFSS下位尺度の平均値と標準偏差
タングラムに取り組む頻度ごとのFSS下位尺度の平均値と標準偏差

4.パズルごとの好みの程度とFSS尺度得点の比較


  質問紙においてパズルの種類ごとにそのパズルに取り組むのが好きかどうかをきく項目である「私はこの課題に取り組むのが好きだ」を5件法で測定した。頻度のときと同様、「非常にあてはまる」、「ややあてはまる」と答えた人を高群、「どちらともいえない」と答えた人を中群、「あまりあてはまらない」、「全くあてはまらない」と答えた人を低群とした。パズルに取り組むのが好きかどうかというのがフロー体験に影響を及ぼしているかを検討するためFSSの下位尺度得点とパズルの種類と好きかどうかによる2要因分散分析をおこなった。その結果、【能力への自信】、【目標への挑戦】、【集中】、【楽しさ・喜び】、【時間意識】のすべての下位尺度において交互作用に有意な差はみられなかった。そのため、頻度のときと同様に、パズルの種類別にFSSの下位尺度得点とパズルに取り組むのが好きかどうかの度合い別の高中低群による1要因3水準の分散分析をおこなった(Table 8~10)。
  その結果、ペンシルパズルとジグソーパズルの場合すべてのFSS下位尺度において高群と低群の間に有意な差がみられた。タングラムの場合、【集中】と【時間意識】に有意な差はみられなかった(集中:F (2,58)=2.52, n. s., 時間意識:F(2,58)=3.12, n. s. )。また、【楽しさ・喜び】において3種類すべてのパズルで、高群、中群、低群のすべての群間に有意な差がみられた(ペンシルパズル:F(2,158)=38.78, p< .001, ジグソーパズル:F(2,148)=74.02, p< .001, タングラム:F(2,58)=16.58, p< .001)。

ペンシルパズルの好みの程度とFSS下位尺度の平均値と標準偏差
ジグソーパズルの好みの程度とFSS下位尺度の平均値と標準偏差
タングラムの好みの程度とFSS下位尺度の平均値と標準偏差

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