【問題と目的】
2.地方自治体による災害支援(被災地支援)について
災害時の支援については、個人のボランティアだけでなく自治体による支援が大きな役割を果たす。たとえば近隣の自治体は支援に向かうスピードが速く、被災状況も把握しやすいため発生直後の支援において重要である。また、遠方の自治体からも時間はかかるものの状況に合わせた対応ができる。自分が住んでいる町が被災したときに、隣の市町村や遠方の市町村の行政組織が助けに来てくれるというのは大変ありがたい話である。あまり知られていないが、こういう協同体制はないわけではない。
こうした自治体による相互支援体制は複数の都市によって事前に定められた協定に基づくもの、一対一で独自に結んだ協定に基づくもの、災害を機に新たに支援に入ったものなど実に多様な形のものがあり、その枠組みで支援が行われた。その中でも一対一で行われた「対口(たいこう)支援(ペアリング支援)」や「カウンターパート方式」と呼ばれる支援が東日本大震災では非常に大きな効果を発揮した(本荘,2013)。
対口支援とは被災自治体と支援側自治体が一対一で関係を結び、各種の支援をその自治体同士で行うものである。この対口支援は2008年に発生した中国・四川大地震の際に注目され、中国政府によって指定された各省が被災した各県を一つずつ支援していく仕組みでその結果、迅速な復興に大きな役割を果たした。この仕組みは中国では1970年代末から行われていたものであり、「対口」とは中国語でペアを意味している。この考え方を日本版として考え直し、実行したことでより細かい支援を行うことができた。関西圏の8府県と4都市で構成され、広域な行政事務を行うことを目的として発足した関西広域連合がいち早い対口支援を決め、被災地の一つの県ごとに構成している2、3の県を集中して割り振って支援を行った。
また、カウンターパート方式は対口支援と似た考え方であるが、これは被災自治体に対して遠方の自治体が独自に働きかけ行われた一対一の支援の方法であり、対口支援と同じくきめ細かい支援が可能となる。カウンターパート方式の主な例として名古屋市の取り組みが挙げられ、東日本大震災のときは、名古屋市は岩手県陸前高田市の行政機能やその他の支援を包括的に行い、素早い対応のもとで陸前高田市の復興につながった。名古屋市は災害復興における職員の派遣だけでなく、その後の復興を後押しするような持続的な支援も行うことになった。
応援協定に基づく支援はもちろんのことであるが、東日本大震災では押しかけ支援という形で行われる支援が多かった。実は、先に挙げた関西広域連合の対口支援や名古屋市のカウンターパート方式による支援は事前に応援協定を結んでいたわけでなく、独自の判断で動き、支援がスムーズにできた事例である。そして、震災後に改めて協力関係を作っている。
こうした自治体の自発的な支援が広がったことから神谷(2013)はこの2011年を今後は「自治体連携元年」と呼ばれることになるかもしれないとし、今後の自治体支援の方向性を考える契機になったと考えている。
従来、自治体による被災地支援は国からの指示を待ってから行われることが多く、「国−地方自治体」というタテ関係が強い傾向にあったが、東日本大震災では地方自治体相互のヨコ関係が機能したことが大きかったと言える。被災地の自治体からの要請に基づいた支援は協定によるものもあるが、国からの要請に基づいて応援職員を派遣することもある。こうすることで多くの職員を派遣することができる。しかし、この場合、派遣元の自治体と応援要請をした派遣先の自治体との間で調整を行わなければならず、その時間がかかってしまうことで迅速な対応ができなくなってしまう。その点では地方災害自治体同士が連携して行った今回の東日本大震災時のような職員派遣を含む支援は、迅速な対応がしやすく、相手自治体の状況を考えて動くことができる。
こうした状況を反映し、2011年6月に施行された東日本大震災復興基本法第2条2項で「国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の連携協力並びに全国各地の地方公共団体の相互の連携協力が確保されるとともに、被災地域の住民の意向が尊重され、あわせて、女性、子ども、障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと」などとされ、自治体相互の連携協力の確保が明記された。
今後の災害支援において、地方自治体同士による支援、自治体間連携は中心的な方法になってくると考え、このことについて検討していく意義は大きいと考える。