【問題と目的】
4.自治体の「受援力」について
「受援力」とは、災害時にボランティア等の支援者や支援団体を地域で受け入れる環境や知恵のこと(内閣府,2010)であり、これからは日本の自治体は被災した場合に備えて「受援力」が必要になってくるとされている。
「受援」という言葉はその言葉自体新しい造語であるため、どの辞書にも載っていない言葉であり、おそらくほとんどの人がこの言葉自体を知らないであろう。この受援力は、平時から地域において災害時の対応を意識することで高めていくことができる。また、地域における受援力は、地域の問題であるわけで、行政が中心になって進めていく必要がある。
そういうわけで、阪神大震災を教訓として神戸市では「受援力」を考えている。阪神淡路大震災の時の支援の受け入れ側と東日本大震災での支援側の双方を経験したことを踏まえ、全国の自治体に先駆け、東日本大震災へ駆けつけた応援職員や被災地職員を対象としたヒアリングアンケート調査などを基にして平成25年3月に「神戸市災害受援計画」を作成した。
「受援計画」とは、災害発生時に発動される支援受け入れに関する計画であり、この受援計画に沿って災害対応の各業務と、それに関する全国からの支援の受け入れ作業が行われる。受援計画の作成によって被災時に効率的な支援受け入れを行うことができるようになることが考えられ、支援のあり方、受援のあり方を明確にすることができると考えられる。
しかし、このような受援計画策定は、神戸市以外の自治体でも、消防や水道などの分野では策定されていることもあるが、災害分野については他の自治体ではまだ策定されていない。神谷(2013)によると、一般社団法人地方行政調査会が2012年9月に全国の市と特別区計810市区を対象に受援計画策定の実態調査を行っている。その中から回答を得られた691団体のうち「策定済み」と回答したのは13団体、「策定作業中」が24団体、「策定予定=策定方針は決定済みで近く策定作業に入る予定」が12団体で、全体の7%にあたる計49団体が策定に乗り出していることが確認できた。また、総務省の調査(2014)によると実地調査を行った29都道府県及び168市町における受援計画の策定状況は12都道府県及び19市町、策定中としているものは1都道府県及び1市町、策定していないものは16都道府県及び148市町となっている。しかし、内容について詳細に記載されているものは少なく、神戸市の受援計画がいかに先進的なものであるかということが図らずも明らかになった。一方、この調査では「策定予定なし=9月1日時点で策定する予定が入っていない」のは403団体あり、受援計画への関心の低さも表れた。こういった自治体の受援計画は独立して策定されているわけではなく、防災計画などの一部として組み込まれており、その内容は数ページに簡潔に記載されている程度である。今後、おそらく多くの自治体が神戸市にならって受援計画を策定すると思われるが、受援力についての明確な定義や受援計画に関する決まりなども存在しておらず、なかなか被災した場合の状況をイメージもできないこともあるため、今後はさらに受援力、受援計画について広めていく必要があると考えられる。
ここでも述べたように国内に存在する受援計画には消防分野などで策定されている一般的なタイプと神戸市のように独自に策定した神戸市タイプの大きく2つのタイプに分類される。そこで本研究ではより具体的に検討がなされ、実際に被災経験を持つ神戸市の受援計画について検討していくこととする。現状でも、神戸市は受援力に対する考え方がもっとも深く、受援計画についてもおそらく全国で一番進んでいると考えられるため、神戸市の受援力及び受援計画に焦点を当てて本研究を進めていくこととする。