1 愛着スタイルとPIの関連についての検討

 仮説1の検証のために、4分類した愛着スタイルとPIに関する質問項目の関連について検討した。その結果、社交性については愛着スタイル安定型、とらわれ型が、自己を平均以上であると捉えており、安定型は拒絶型、恐れ型と比較した際に、また、とらわれ型は恐れ型と比較した際に、愛着スタイルのちがいによる効果がみられた。調和性については、社交性と同じく、愛着スタイル安定型、とらわれ型が、自己を平均以上であると捉えており、安定型は拒絶型、恐れ型と比較した際に、また、とらわれ型は恐れ型と比較した際に、愛着スタイルのちがいによる効果がみられた。身体的特徴については、どのスタイルも自己を平均以上と捉えてはいなかったが、安定型が、恐れ型に比べて自己をより肯定的に捉えていた。また、経験への開放性、誠実性に関しては、愛着スタイルによるちがいはみられなかった。以上のことより、仮説1は一部支持された。

 安定型は、他のスタイルと比べ、自己を全体的に肯定的に捉えており、恐れ型は他のスタイルと比べ、自己を全体的に否定的に捉えていた。これは、安定型や恐れ型が、各スタイルの持つ自己観や他者観と同様の傾向の自己評価をしているといえるだろう。

 また、田附(2015)は、愛着スタイルと自己イメージとの関連を検討し、拒絶型は能力のなさや、人との関わりの薄さを感じているということを示した。このことは、自己観がポジティブであるはずの拒絶型で、自己を平均以上と捉えているだろうという仮説が支持されず、さらに、特に社交性と調和性という他者との関わりに関する項目で、自己を低く捉えているという本研究の結果と同様の傾向であるといえる。このような結果がみられた理由として、愛着スタイル2次元4分類モデルの拒絶型と対応関係があるとされている3類型モデルの「回避型」の特徴が表れていると考えられる。遠藤・田中(2005)によると、Ainsworth et al (1978) はストレンジ・シチュエーション法により、回避型には養育者との別れの場面でもさほど動揺せず、再会時にも養育者を喜んで受け入れる様子があまりみられないという特徴があることを発見した。すなわち、回避型は愛着を形成すること自体を避ける傾向があると考えられる。これらのことから回避型は、自分が他者と関わることを避ける特徴があることを認識しており、その現実に沿った自己評価をしていると考えられる。また、鈴木(2004)は、理想自己と現実自己のズレは、失望、不満、抑うつと結びつくことを、松岡ら(2006)は、理想自己と現実自己のズレが大きくなるほど自尊感情が低下することを示した。以上のことから拒絶型は、他者との関わりに関する項目で自己を低く評価することによって、理想自己と現実自己とのズレが大きくならないようにし、失望、不満、抑うつの感情の発生や自尊心の低下など、精神的健康への悪影響を防いでいるのではないかと考えられる。

 また、田附(2015)は、愛着スタイルとらわれ型は自己イメージを、自分が取り組んでいる活動からではなく、人との関係からみいだしやすいことを示していた。これは、とらわれ型が、社交性、調和性という他者との関わりに関する項目で自己を平均以上であると評価していた本研究の結果と関連した傾向であるといえる。田附(2015)によると、Mikulincer & Shaver (2007) は、とらわれ型の人は、他者から注目、愛情、支持を集めることに非常に重きを置き、拒絶されることを強く恐れる特徴があることを指摘している。このことから、本研究の結果では、とらわれ型の自己評価には自己評価維持モデルが働いていると推測できる。Tesser et al (1984) や磯崎・高橋 (1988) は、自己評価維持モデルについて検討し、小学生や中学生を対象にした研究で、自分の中で関心の高い分野ほど、高い自己評価をしているということを示している。以上のことより、とらわれ型は他者との関わりに重きを置いており、それが自分の中で関心の高い分野となっているため、自己評価維持モデルが働き、社交性、調和性の項目で自己を平均以上と捉えていたのではないかと考えられる。

 以上のことより、愛着スタイルによる自己評価のちがいはみられたが、それは、愛着の内的作業モデルである自己観、他者観のポジティブ・ネガティブが単純に自己評価を規定しているわけではないことが明らかになった。


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