10 本研究の視点

 以上のように自己概念は、自分の都合の良いように歪められており、自己概念に沿って情報を選択的に取り入れたり、処理したり、友人を選択したりするように、認知や行動に影響を与えることが、自己スキーマや自己評価維持モデルという構造の想定によって説明されている。この構造の想定は、愛着スタイルが認知や行動に影響する際に、獲得された内的作業モデルによって、情報を選択、解釈し、将来の行動を方向づけるという構造と類似しているといえる。また、愛着は、乳幼児期に親密な相手との間で築かれ、その後の人生に影響を与えると考えられているので、愛着は自己概念を形成する際に影響を与えているのではないかと考えられる。このことから、愛着と自己概念との間には関連があり、愛着スタイルによって自己概念にちがいがみられるのではないかと考えられる。

 同様の視点からの研究として、Mikulincer (1995) の研究が挙げられる。Mikulincer (1995) は、高校生を対象として、3類型のアタッチメントタイプと自己概念の関係を検討した。その結果、安定型、回避型はアンビヴァレント型より肯定的な自己概念をもっており、さらに、安定型はバランスのとれた複雑な、一貫した自己構造をもつことが明らかにされた。しかし、愛着スタイルと自己概念との関連をみた研究は、日本ではあまりされていない。また、自己概念は愛着の内的作業モデルと深く関連していると考えられるが、Mikulincer (1995) は3類型の愛着スタイルでの検討をしており、ボウルビイ(1973)の内的作業モデルの想定に基づいた検討がなされているとは言えない。そこで、ボウルビイ(1973)の内的作業モデルの想定に基づいた、愛着の2次元4分類モデルで検討することが有益であると考えられる。さらに、先述したように、自己概念は2つの視点、4つの基準の組み合わせによる評価過程を経て獲得されるため、個人がどのような自己概念をもっているかを検討する際には、それらの基準を分けて考えることが有益であると考えられる。

 また、自己意識は、乳幼児期に自他の区別ができるようになるころに芽生え、成長と共に自己概念を形成し、その後は自己概念によって支えられるようになるといわれており、自己意識は自己概念と深く結びついていると考えられる。このことから、乳幼児期に形成され、自己概念の形成に影響を及ぼしていると考えられる愛着は自己意識とも関連があると考えられる。よって、愛着スタイルのちがいによって、特性的な自己意識の強さにちがいがみられるのではないかと考えられる。

 以上のことより、次の2点を本研究の目的とする。1点目は、2次元4分類の愛着スタイル測定尺度を用い、愛着と自己概念との関連、特に、自己概念の中で、自己評価維持モデルにより他者と比較した際の自己評価と行動との関連が注目されていることから、自己概念の評価的次元のうち、ブラッケン(1996)の比較基準による評価に特に着目し、愛着スタイルによる自己概念のちがいを明らかにすることである。2点目は、愛着スタイルによる特性的な自己意識の強さのちがいを明らかにすることである。

 自己概念の比較基準による評価の指標として、正常な人間がもっていると考えられている認知の歪みである、PIを用いることとする。PIは、その測定方法である「一般的(平均的)な○○と比べてあなたは」と評定を求める相対的方法によって、他者と比較した際の自己評価を測定できると考えられる。 また、自己の研究において、青年期は自己確立や自己形成の時期であるとされている(平石, 1990)。この青年期の時期には、安定した自己についての認識を獲得していくと考えられるので、本研究では、青年期に焦点を当てて、研究を行うこととする。


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