2 愛着行動

 手を伸ばせば物に届き、頭を動かせば見える景色が変わる。人は生まれてから感覚器官を通して周りの環境の情報を入手し、それをもとにした周りの環境とのやりとりを通して、自分や世界に関する認識を作り上げていくと考えられている。

 特に、乳幼児期には誰かの保護を受けないと生きていけないため、周りの環境の情報の中でも、自分を保護してくれる養育者に関する情報に注意を払っていると考えられる。このことを裏付けるように、乳幼児期の子どもは、後追いや人見知りなど、自分を保護してくれる養育者に対して、他の人とは異なる強い結びつきを示す。このような子どもの養育者に対する結びつきのことを、ボウルビイ(1969)は「愛着」という言葉で表現した。また、子どもは、お腹が空いたりオムツが汚れたりしたとき、その状況を改善してほしいと泣く。このように、子どもは養育者に対し、自分の生きる環境を快いものに整えてくれることを要求する。ボウルビイ(1969)は、子どもは養育者を「ある結果をもたらす対象」とみなし接近行動を行うと考え、この接近行動を行うシステムが、子どもの養育者に対する愛着を生み出していると考えた。そしてこの養育者に対する子どもの接近行動を、「愛着行動」という言葉で表現した。また、子どもはただ単に生きるための機能として養育者に強い結びつきを示しているだけではなく、子どもと養育者との間には情緒的な「きずな」が形成されていると考えられており(ボウルビイ, 1980)、主にその情緒的なきずなも含めて「愛着」とよばれている。

 愛着行動は、子どもに対する養育者の「養育行動」を引き出す役割を担っている。しかし、乳幼児期が過ぎ、養育行動を引き出す必要がなくなっても、愛着行動は消失せず、一生を通して存続するといわれている(ボウルビイ, 1969)。ただし、一生を通して、養育者に対して愛着行動をとるわけではない。ボウルビイ(1969)は、青年期には親に対する子どもの愛着行動は弱まり、親以外の他者が重要な人物となると述べている。人は成長するにしたがって様々な人と出会い、養育者以外にも友人や恋人などの自分にとって重要な他者を見つけていくのである。


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