3 内的作業モデル

 さて、人が対人関係を築くときには、誰とでもすぐに打ち解けられる人、相手に心を開くまで時間がかかる人、仲良くなるのをなんとなく避ける人など、個人によってだいたいいつも同じようなパターンを見出すことができる。このように、個人によって同じような対人関係のパターンが現れるのは、乳幼児期の養育者との愛着関係に起因していると考えられている。

 ボウルビイ(1969, 1973)は、「内的作業モデル」という考え方を用い、そのことを説明している。ボウルビイ(1973)によると、子どもは養育者との継続的なやりとりの中で、 (a) 養育者は自分の求めに応じてくれる人物であるのか、 (b) 自分は、養育者から助けを与えられる人物であるのか、という2つの視点からの情報を獲得し、自分の中に内在化する。そして、内在化された2つの視点からの情報を用いて、効果的に養育者から保護を得るために、その情報に合わせた愛着行動をとるようになる。例えば、子どもの接近行動を快く受け入れる養育者の情報が内在化されていれば、子どもはさらに接近行動を行うようになるだろう。このような、内在化された2つの視点からの情報によって愛着行動を方向付けるものを、内的作業モデルという。島・福井・金政・武儀山(2013)は、内的作業モデルが表情からの情動の読み取りに影響を与えていることを明らかにし、内的作業モデルが情報処理に影響を与えていることを確認した。

 では、このように効率的な情報処理を行うと考えられている内的作業モデルは、どのような構造をもつのだろうか。坂上(2005)によると、現在では、内的作業モデルの構造を考える上で、スクリプトやスキーマという構造に注目が集まっている (Bretherton, 1985, 1987, 1990; Crittenden, 1990, 1992)。スクリプトやスキーマとは、例えば、「自分が泣くと母親は抱き上げてくれる」、「自分が甘えると父親はお菓子を買ってくれる」など、特定の状況において行われる行動についての知識や、過去の経験をもとにして構造化された知識(無藤・森・遠藤・玉瀬, 2004)のことである。すなわち、内的作業モデルとは、経験をもとにした知識であるスクリプトやスキーマという構造をもっていると考えられている。

 以上のことから内的作業モデルとは、スクリプトやスキーマという構造をもち、養育者とのやりとりの経験をもとに愛着に関する情報を構造化し、構造化された知識を用いてその後の他者との関わりについての情報を効率的に処理することで、愛着行動を方向づけているのだと考えられている。


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