5 近年の愛着スタイル研究

 上述したように、愛着研究はボウルビイの理論にもとづき、いくつもの測定方法が考案され、多くの研究がされてきた領域である。ボウルビイの、乳幼児期に養育者との間で築かれた愛着は一生を通して影響するという主張は、「内的作業モデル」の考え方をもとにして、近年盛んである成人の愛着スタイル研究へと通じている。

 成人の愛着スタイルは、対人関係との関連について様々な検討がなされてきた。日本では、金政・大坊(2003)が、青年期の愛着スタイルが親密な異性関係に及ぼす影響を検討し、恋愛へのイメージ、つまり、恋愛に対する期待感や態度に、愛着スタイルによる違いがあることを示した。また、村上(2014)は、大学生における愛着スタイルと友人関係への動機づけの関連を検討し、愛着スタイル安定型は適応的な動機づけを、とらわれ型は適応的な動機づけと不適応的な動機づけの両側面を、恐れ型は不適応的な動機づけを持つ傾向があることを明らかにした。このように、成人の愛着スタイルの違いは、対人関係を築く際の期待や態度と関連していることが明らかにされている。また、乳幼児期の愛着の形成過程では、養育者という親密な相手との関係が大きな影響を与えているが、金政 (2003) によると、初めて出会う他者や日常での相互作用においても各愛着スタイルは異なった傾向を示すといった報告 (Horppu & Ikonen-Varila, 2001; Pietromonaco & Barrett, 1997; Westmaas & Silver, 2001) がある。これより、近年の研究からも、ボウルビイの主張するように、愛着スタイルは他の人との関係性においても一般化されるようになってくると考えることができる。

 以上のように、愛着スタイルは、乳幼児期に養育者とのやりとりをもとに形成され、その情報は内的作業モデルとして内在化され、全般的な対人関係に関する情報処理の効率化に関与することで、個人の行動を方向づけていると考えられる。すなわち、「愛着」をもとにして、対人関係における「自分」が形成されているといえるのではないだろうか。


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