7 自己概念の構造や機能
このように自己概念とは、多次元的、多面的な構造をもつと考えられているが、その構造や機能は「自己スキーマ (Self-schema) 」という視点を用いて考えられている。
自己スキーマとは、過去の経験から引き出される、自己についての認知が一般化されたものであり、個人の社会的な経験に含まれる自己に関する情報処理を組織し、方向づけるものである (Markus, 1977) 。榎本(1998)によると、Markusは、一度形成された自己スキーマはその保持に都合の良いように、その後入ってくる情報を選択的に取り入れたり、その重要度を割り振ったり、それを構造化したりすると仮定した。自己スキーマが自己に関する情報の処理に影響していることはMarkus (1977) によって明らかにされているが、さらに、自己に関する情報の処理だけでなく、他者に関する情報の処理にも関与することがHamill (1980) によって確認されている(榎本, 1998)。このように、自己概念は、自己スキーマという視点から、能動的に自己や他者に関する情報処理に影響を与えていると考えられている。
さて、自己概念は情報処理だけではなく、行動にも関与していることが示唆されている。自己概念と行動の関係については、自己概念の評価的側面において、自己評価維持という視点から多くの研究が行われている。Tesser, Campbell & Smith (1984) は、自己評価維持モデル (Self-Evaluation Maintenance Model) を提唱し、主に友人関係を中心に他者との比較を通した個人の自己評価維持について述べた。Tesser et al (1984) は、小学生を対象とした調査で、自分にとって関心の高い分野の活動においては、心理的に近い他者より自分の方が優れていると認知しており、関心の低い分野の活動では、心理的に近い他者の方が自分より優れていると認知しているとうことを明らかにした。日本では、磯崎・高橋(1998)が、小学生および中学生を対象とした調査で、Tesser et al (1984) と同様の結果を報告している。一方、自己評価を維持するために認知を歪めているのか、それとも自己評価を維持できるように友人を選択しているのかは、Tesser et al (1984) と、磯崎・高橋(1989)との間で意見が分かれるところであるが、自己評価を維持できるように友人を選択しているという磯崎・高橋(1989)の見解は、自己概念が行動に関与しているという考えを支持している。
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