8 自己意識

 先述したように自己概念とは、意識することのできる自己の認知が体制化されたもの(ロジャース, 1951) であるが、このことに対して、自分の身体的あるいは精神的な特性、社会的な関係や役割、所有するものや所属するところなどをめぐる「今ここでの気づきやイメージ」を、「自己意識」という(梶田, 1988)。自己意識は、その形成過程において自己概念と深く結びついていると考えられる。梶田(1988)によると、自己意識は、乳幼児期に自分とそれ以外のものとの区別ができるようになるあたりから芽生え始める。そして、成長するにしたがって自分と他のものについての認識の分化が進むと、自分を、ある特性を持つものとして意識するようになり、自己意識は一定の構造をもつ自己概念として自分の中に定着していく。そしてその後は、自己概念という基盤的な概念構造によって支えられるようにもなると考えられている。このことから、自己概念と自己意識は深く結びついていると考えられる。

 さらに、自己概念が認知や行動に関与しているということは先ほど述べたが、自己に意識を向ける程度も、認知や行動に関与していることが明らかになっている。菅原(1984)によると、Duval & Wicklund (1972) は、自己意識の高まり(自己に注意が集中した状態)が個人の自己評価や社会的行動に影響を及ぼすことを、鏡などを使った実験により示した。また、自己に注意を向けやすい人とそうでない人がいるように、個人のパーソナリティ要因も自己意識を高める要因であると考えられ、Fenigstein, Scheier, & Buss (1975) は、自己に注意を向けると過程を特性としてとらえた、公的・私的自己意識を提唱した。私的自己意識は、自分の感情や気分など、他者からは直接観察されることのない自己の側面に対しての注意の向けやすさに関する個人差を示すものであり、公的自己意識は、自分の服装や髪型、他者に対する言動など、他者から観察される自己に対しての注意の向けやすさに関する個人差を示すものであると考えられている。

 このような個人のパーソナリティとしての自己意識の強さは、対人行動の在り方に影響を与えていることが示されている。例えば、私的自己意識の強い人は、その時々の自分の態度を把握しているため態度と行動の一貫性が高く (Scheier, 1980)、公的自己意識の強い人は、他者からの評価的な態度に敏感であり、他者の目を気にして自分をコントロールする傾向がある (Fenigstein, 1979) という結果が示されている研究がある。以上のことから、自己意識は自己概念を構築し、自己概念と深く関わり合いながら、認知や行動を方向づける要因となっていると考えられる。


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