総合考察



1. 本研究で明らかになったこと

 本研究では、幼少期に養育者との間で築かれた愛着スタイルの継続であると考えられている、青年期の愛着スタイルと、自己概念との関連について、他者と比較した際の自己評価と自己意識に焦点を当てて検討することが目的であった。「自分とは何によってどのように形作られているのか」という問いを少しでも明らかにしたいと考え、愛着スタイルと自己概念との関連を検討する本研究にいたった。

 本研究で明らかになったことは、次の3つである。1つ目は、愛着スタイルによって、他者と比較した際の自己評価に特徴的なちがいがみられることが明らかになったことである。安定型は、他のスタイルと比べて全体的に自己を平均以上と評価しており、恐れ型はその逆であった。また、とらわれ型も、他者との関わりに関する項目で、自己を平均以上と評価していた。2つ目は、愛着スタイルの基盤である内的作業モデルの自己観、他者観が、そのまま単純に自己評価を規定する要因になっているわけではないことが示唆されたことである。また、本研究では、自己観である見捨てられ不安が、自己評価に影響を与えていると予想していたが、見捨てられ不安(自己観)とPIの項目との間に相関はみられず、親密性の回避(他者観)と自己評価との間に相関がみられた。このことに関連して、金政・大坊(2003)は、親密な関係において自己を肯定的に捉えるかについては愛着次元の親密性の回避の影響がみられたと報告しており、本研究はこの報告と同様の傾向を示していた。梶田(1988)によると、自己評価の低い人は高い人に比べ、相手から高く評価されたわけではないと思う傾向がある。このことより、他者と比較した際の自己評価は他者観を規定する要因になっていることも考え得る。つまり、内的作業モデルが自己評価に影響を与えているというよりも、自己評価が、「他者に対する信念や期待」に影響を与えていることが考えられる。3つ目は、自己意識の強さは、他者の存在を強く意識しているとらわれ型に特徴的な特性であることが明らかになったことである。公的自己意識・私的自己意識の強さは、愛着スタイルによってそれぞれに特徴がみられるわけではなく、他者との関わりに重きを置いているとらわれ型で、自己意識が強いという特徴がみられた。

2.愛着と自己概念の研究における展望

 本研究では、愛着と自己概念との関連を検討するため、自己概念の中でも特に、他者と比較した際の自己評価に着目し、研究を行った。その結果、愛着の内的作業モデルである見捨てられ不安(自己観)と親密性の回避(他者観)の組み合わせによって自己評価が規定されているという当初の予想とは異なり、親密性の回避(他者観)のみが自己評価と関連していることが明らかとなった。「自分は養育者から助けを与えられる人物であるのか」という、幼少期に獲得された自己についての内的作業モデルの継続であると考えられている青年期の見捨てられ不安において自己評価との関連がみられなかったことは、興味深い結果である。本研究からは、自己評価の維持や精神的健康への悪影響を防ぐためにこのような結果になったことが推測されるが、愛着の内的作業モデルと自己評価との関連を検討した研究は数少なく、検討の余地が残されている。内的作業モデルの見捨てられ不安は、なぜ自己評価との関連がみられないのか、内的作業モデルと自己評価の間にはどのような影響関係があるのかという課題も含め、愛着と自己概念、特に自己評価との関連については、これからさらに検討を深めていく必要がある領域であると考えられる。

3.今後の課題

 本研究における課題は、次の3つである。1つ目に、本研究では、愛着スタイルと自己概念との関連の検討を試みたが、一般他者に対する愛着スタイルと、自己概念の獲得に関する比較基準での評価的過程のみとの関連の検討にとどまっていることである。「自分とは何によってどのように形作られているのか」という問いを検討するためには、さらに、自己概念の獲得に関する比較基準以外の3つの基準との関連の検討や、一般他者のみならず、友人や恋人に対する愛着スタイルとの関連の検討をする必要があるだろう。2つ目に、本研究では愛着スタイルと自己評価の関連を検討したことにとどまっており、どのように影響しあっているのかを検討するにはいたっていないことである。しかし、自己概念はどのようにして形成されるのかを検討するためには、要因がどのように影響しているのかを検討する必要があるだろう。3つ目に、PI傾向の高い人は、他の質問項目でも自己を肯定的に捉えているために、今回のような相関がみられた可能性があることである。今回の結果を検討するにあたっては、そのことを念頭に置く必要があるだろう。


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