6.クラスタ分析による検討
両親の結婚生活コミットメントをもとに夫婦関係の質について検討し,笑いに対する意識及び社会的スキルとの関係について検討するため,クラスタ分析を行った。
6-1.クラスタ分析による分類
親の結婚生活コミットメント認知を用いてクラスタ分析を行い,4つのクラスタを得た。第1クラスタには102名,第2クラスタには46名,第3クラスタには59名,第4クラスタには31名の被験者が含まれていた。得られた4つのクラスタそれぞれにおけるコミットメントの差をTable7,Figure1に示す。
「存在の全的受容・非代替性」は,被験者全体の平均値が3.30であるのに対して,第1クラスタの平均値が3.09,第2クラスタの平均値が4.43,第3クラスタの平均値が3.53,第4クラスタの平均値が1.85であった。「社会的圧力・無力感」は,被験者全体の平均値が2.45であるのに対して,第1クラスタの平均値が2.39,第2クラスタの平均値が1.50,第3クラスタの平均値が3.40,第4クラスタの平均値が2.97であった。「永続性の観念・集団志向」は,被験者全体の平均値が3.24であるのに対して,第1クラスタの平均値が2.86,第2クラスタの平均値が2.96,第3クラスタの平均値が3.90,第4クラスタの平均値が3.61であった。「物質的依存・効率性」は,被験者全体の平均値が3.24であるのに対して,第1クラスタの平均値が2.86,第2クラスタの平均値が2.96,第3クラスタの平均値が3.92,第4クラスタの平均値が3.64であった。
4つのクラスタを独立変数,コミットメントの下位尺度を従属変数として1元配置の分散分析を行った(Table8)。
その結果,すべての下位因子において有意な群間差が示された。
TukeyのHSD法による多重比較を行ったところ,「存在の全的受容・非代替性」においてはすべてのクラスタにおいて有意な群間差がみられ[F(3,234)=113.40 ; p<.01],「社会的圧力・無力感」においては第1クラスタと第2クラスタ,第3クラスタ,第4クラスタの間,第2クラスタと第3クラスタ,第4クラスタの間において有意な群間差がみられた[F(3,234)=71.64 ; p<.01]。「永続性の観念・集団志向」においては第1クラスタと第3クラスタ,第4クラスタとの間,第2クラスタと第3クラスタ,第4クラスタの間において有意な群間差がみられた[F(3,234)=41.96 ; p<.01]。「物質的依存・効率性」においては第1クラスタと第3クラスタ,第4クラスタとの間,第2クラスタと第3クラスタ,第4クラスタの間において有意な群間差がみられた[F(3,234)=39.62 ; p<.01]。
第1クラスタはすべての下位尺度が全体平均を下回っており,夫婦の関係についてお互いに認識が薄いと考えられるため,「非関与群」とした。
第2クラスタは「存在の全的受容・非代替性」がすべてのクラスタと比較し最高の値,「社会的圧力・無力感」「永続性の観念・集団志向」「物質的依存・効率性」についてはいずれも全体平均を下回っており,「社会的圧力・無力感」についてはすべてのクラスタと比較し最低の平均値であった。このことから,夫婦がお互いに認め合い信頼し合っており,情緒的な繋がりが強い傾向にあるため,「情緒的絆群」とした。
第3クラスタについてはすべて下位尺度の得点が全体平均を上回っており,中でも「永続性の観念・集団志向」「物質的依存・効率性」が高い値を示し,「存在の全的受容・非代替性」が低い値を示していたことから,結婚相手に対する情緒的な気持ちよりも一緒に生活することで得られるメリットにより結婚生活を継続している傾向がうかがえるため,「実利的関係群」とした。
第4クラスタについては「存在の全的受容・非代替性」のみ全体平均を下回っており,すべてのクラスタと比較し最低の値であった。このことから,結婚相手に対する信頼や受容は感じておらず,生活を共にすることで得られるメリットのために惰性や諦めによって結婚生活を継続して傾向があることから,「形骸的関係群」とした。
6-2.コミットメントと笑いに対する意識との関係(Tabel9)
得られた4つのクラスタを独立変数,笑いに対する意識の下位尺度「微笑み・心理社会的効果」「声を出して笑う・心理社会的効果」「声を出して笑う・ストレス発散」を従属変数として一元配置の分散分析を行った(Table10)。
その結果,すべての下位尺度において有意な群間差がみられた。TukeyのHSD法による多重比較を行ったところ,「微笑み・心理社会的効果」においては第1クラスタと第2クラスタの間に有意な群間差がみられた[F(3,234)=4.84 ; p<.01]。「声を出して笑う・心理社会的効果」においては第1クラスタと第2クラスタの間,第2クラスタと第4クラスタの間に有意な群間差がみられた[F(3,234)=5.60 ; p<.01]。「声を出して笑う・ストレス発散」においては第1クラスタと第2クラスタの間に有意な群間差がみられた[F(3,234)=3.58 ; p<.01]。
6-3.コミットメントと社会的スキルとしての作り笑いとの関係(Table10)
次に,得られた4つのクラスタを独立変数,社会的スキルとしての作り笑いの下位尺度「感情制御」「雰囲気操作」「行為統制」を従属変数として一元配置の分散分析を行った(Table10)。
その結果,「感情制御」おいてのみ有意な群間差がみられた。TukeyのHSD法による多重比較を行ったところ,第1クラスタと第4クラスタの間に有意な群間差がみられた[F(3,234)=3.01 ; p<.05]。
6-4.コミットメントとアサーションとの関係(Table11)
次に,得られた4つのクラスタを独立変数,アサーションの下位尺度「アサーティブ」「ノンアサーティブ」「アグレッシブ」を従属変数として一元配置の分散分析を行った(Table11) 。
その結果,「アサーティブ」と「アグレッシブ」において有意な群間差がみられた。TukeyのHSD法による多重比較を行ったところ,「アサーティブ」においては第1クラスタと第2クラスタの間,第2クラスタと第4クラスタの間に有意な群間差がみられた[F(3,234)=5.72 ; p<.01]。「アグレッシブ」においては第1クラスタと第2クラスタの間,第2クラスタと第3クラスタの間に有意な群間差がみられた[F(3,234)=3.50 ; p<.05]。
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