2.各尺度の関連
2-1.笑いに対する意識
笑いに対する意識はいずれも社会的スキルとしての作り笑いの下位尺度「感情制御」と「雰囲気操作」との間に正の相関が確認された。アサーションに関しては,「微笑み・心理社会的効果」と「アグレッシブ」との間に負の相関,「声を出して笑う・心理社会的効果」と「アサーション」との間に正の相関,「声を出して笑う・ストレス発散」と「アグレッシブ」との間に負の相関が確認された。これらの結果から,笑いに対する意識と社会的スキルは関連があることが示されたといえよう。この結果は,笑いを肯定的に捉えている人ほど社会的スキルが高いことが明らかにされている(福島,2009)結果と一致する。
社会的スキルとしての作り笑いのうち,「行為統制」と関連がみられなかったことに関して「行為統制」は笑いを発することで相手の反応をコントロールしようとするものであり,攻撃的な側面が含まれることが理由として考えられる。笑いに対する意識は感情を隠蔽することや場の雰囲気を調整するといった機能や印象形成に関する意識が含まれる(福島,2009)ことから,笑いは他者や場に対してポジティブな影響を与えるものであると意識している人ほど,高い得点で評価していることが考えられる。「感情制御」と「雰囲気操作」は共にそれらの意図に合った行動であることから関連が見られたのだろう。「アグレッシブ」に関しては,相手の意見は二の次で自分の意見を押し通して発言するスキルである。そのため,相手や場を意識した笑いに関する尺度と負の関係が見られたと考える。
2-2.社会的スキルとしての作り笑いとアサーション
社会的スキルとしての作り笑いおよびアサーションは自己呈示や自己主張といった他者への積極的な働きかけという共通の側面をもっていることから,関連が見られるだろうと考え,検討を行った。その結果,「感情制御」と「アサーティブ」「ノンアサーティブ」の間の正の相関,「雰囲気操作」と「アサーティブ」の間に正の相関,「行為統制」と「ノンアサーティブ」「アグレッシブ」の間に正の相関が確認された。以上の結果から,社会的スキルとしての作り笑いとアサーションは関連があることが明らかになった。「感情制御」に関しては自分や相手のネガティブな感情を隠蔽ないし解消するために行われる社会的スキルであることから,相手のことも考慮して自分の意見を発言する「アサーティブ」と,十分に発言しない「ノンアサーティブ」と関連がみられたのだろう。「雰囲気操作」は関係の調整や維持を目的として行う社会的スキルであり,他者や場に対する積極的な関わりを要するスキルである。そのため,場や関係といった相手の要因も考慮する「アサーティブ」と関係がみられたと考える。「行為統制」は他者の行動を矯正ないしコントロールしようとして発する笑いスキルであることから,相手のためではなく自分の利益のためのスキルという共通点から,無理やりにでも自分の発言を通そうとする「アグレッシブ」と関連がみられたのだろう。「ノンアサーティブ」は十分に発言しないという尺度であるが,「行為統制」は,「他の人と一緒になにか怖い目に遭った後は笑い顔を見せようと努めることがある」といった言葉ではなく表情を使って自己表現する因子が含まれる。蔭山(2009)は特に発言に着目したアサーション尺度であるため,このような他者をコントロールする笑いスキルと十分に発言しない「ノンアサーティブ」に関連が見られたのではないかと考える。
←back/next→