1.親の結婚生活コミットメント認知
青年期の子どもが認知する両親のコミットメントが子どもの笑いに対する意識及び社会的スキル(社会的スキルとしての作り笑い及びアサーション)及ぼす影響について検討するためにコミットメントを説明変数,笑いに対する意識及び社会的スキルを目的変数として重回帰分析を行った。その結果,子どもが,自分の両親が「存在の全的受容・非代替性」によって結婚生活を継続していると認知していることは,子どもの笑いに対する意識のうち「微笑み・心理社会的効果」「声を出して笑う・心理社会的効果」とアサーションのうち「アサーティブ」に正の影響を及ぼすことが明らかになった。この結果から,仮説1は一部支持された。「存在の全的受容・非代替性」を高く評価することはすなわち,両親の関係は良好であると認知していることである(宇都宮,2005)ことから,子どもが両親の関係を良好であると捉えることは,子どもにとってポジティブな影響を及ぼすことが確認された。次に,両親が「社会的圧力・無力感」によって結婚生活を継続していると子どもが認知することは,子どもの笑いに対する意識のうち「声を出して笑う・ストレス発散」に負の影響,アサーションのうち「アグレッシブ」に正の影響を及ぼすことが明らかになった。この結果から,仮説2は一部支持された。宇都宮(2005)によると,「存在の全的受容・非代替性」と「社会的圧力・無力感」は相反する性質を持っており,子どもが「社会的圧力・無力感」を高く評価することは両親の関係はうまくいっていないと認知していることである。つまり,子どもが両親の関係を良好でないと捉えることは,子どもにとってネガティブな影響を与えることが確認された。
以上の結果より,両親の関係が良好であると子どもにポジティブな影響を及ぼし,良好でないと子どもにネガティブな影響を及ぼすことが確認された。これらの結果から,子どもが認知する両親の関係は子どもの笑いに対する意識や社会的スキルに影響を及ぼすと言えるだろう。
. しかしながら,社会的スキルとしての作り笑いに関してはいずれの下位尺度からも影響がみられなかった。斎藤(2013)は,親と普段からコミュニケーションをとっている青年の方が親と一緒にいるときに笑う傾向にあることを示唆していることから,家族間コミュニケーションの基盤となる夫婦関係が子どもの笑いに影響を及ぼすだろうと考えた。しかし,社会的スキルとしての作り笑い尺度は,自分や相手に対するネガティブな感情の隠蔽や解消,場の雰囲気の調整,相手の行動をコントロールするスキルからなっている。この尺度は場の雰囲気や他者との関係の調整が中心となっていることから,夫婦関係が良好であり家族システムが安定している子どもだけではなく,夫婦関係が良好でないことから家族システムが不安定である子どもも雰囲気を調整するためにこれらのスキルを習得している可能性が考えられる。そのため両親のコミットメントからは影響がみられなかったのではないだろうか。
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