1. はじめに
最近,現代の若者の人間関係が希薄化しているとよく言われる。岡田(1993,1995)は,現代の若者は,互いを傷つけないように気を遣いながら,自分自身の内面を開示することを避けて関わり合っていると指摘している。また土井(2009)は,人々の価値観が多元化し,関心対象も様々である今日の社会において良好な関係を築いていくことは難しく,円滑なコミュニケーションを営む能力が必要不可欠であると述べている。
これに関連して,最近は「空気を読む」という言葉が日常的に使われるようになり,その場に応じた態度や行動が求められることもある。そのためには,もしかすると本来の自分ではない自分をあえて演じなければならないような,そんな状況も生まれているように感じる。若者たちは,社会のなかの多くの集団に同時に所属しながら,多様化した人間関係の中で上手くやっていくためのスキルとして,またコミュニケーション・ツールの一つとして,“キャラ”を用いる,あるいは“キャラ”をつくることをしていると考えられる。本研究では,この“キャラ”について考えてみる。
ところで“キャラ”という言葉は,特性や性格を意味する“character”を語源としている。現在では“キャラ”は,現実の人間関係の中でも日常的に用いられるようになっている(斎藤,2011)。また,その時点での世の中の動向や社会の流行等も記述されている『現代用語の基礎知識;2015年版』の「医療・健康(メンタルヘルス)」の項のなかには,“キャラ”の説明のなかに「演じる人格」のような意味でも用いられるとある。実際に「キャラが濃い」「キャラ立ち」といった言葉が日常的に使用されることからも,現在では,“キャラ”という概念はコミュニケーションにおいて一般的に用いられているといえるだろう。
しかし,心理学の分野では“キャラ”に関しての研究はまだまだ少なく,実証的な研究もほとんどされていない。そこで本研究では,この“キャラ”についてこれを取り上げ,“キャラ”がどのように使われているのか,とくに同じ人物のなかで“キャラ”を切り替えることによってどのような効果があるのかということについて検討する。
next→