2. コミュニケーション・ツールとしての“キャラ”


 2-1. “キャラ”の定義

 まず“キャラ”がどのように定義されるのか,その概念について見ていく。千島・村上(2016)では,“キャラ”とは「キャラクターの略語であり,集団の中での個人の立ち位置や役割を表す若者言葉である」としている。斎藤(2011)は,「ある種のコミュニケーション・モードが凝集された疑似人格」と述べている。また土井(2009)は,“キャラ”について,生まれもった人格特性を示す「内キャラ」と,対人関係に応じて意図的に演じられる「外キャラ」とに分類し,とくに人間関係における外キャラの呈示は,多様に変化し続ける対人環境の中で,互いの関係を決裂させることなく,コミュニケーションを成立させていくための技法の一つであるとしている。
 これらのことを踏まえて本研究では,コミュニケーション・ツールとしての“キャラ”を「小集団内での個人に割り振られた役割や,関係依存的な仮の自分らしさ」(千島・村上,2015)と定義することとする。  


 2-2. “キャラ”があることのメリットとデメリット

 社会学の分野では,北山(2000)が〈キャラクター〉をいわゆる〈性格〉という意味と,物語における〈登場人物〉という意味の双方を兼ねる(ダブルミーニング)概念として用い,人が性格づけられる現象を〈キャラクター〉化と言い表している。そこで,自他の〈キャラクター〉化は「自己認識」や「他者理解」を深めるという「恩恵」を与えてくれる反面,どんな〈キャラクター〉化であっても,それは自他をなんらかの属性を特性として持つような人間として「型にはめる」ことにもなると述べている。
 この点について,前述の千島・村上(2015)は,友人関係における“キャラ”の機能について述べている。 まず,“キャラ”があることのメリットとして,人間関係の単純化や相手の理解のしやすさ・コミュニケーションの円滑化・居場所の獲得の3つを挙げている。 第一の人間関係の単純化や相手の理解のしやすさとは,相手の性格や特徴が,“キャラ”というある程度パターン化された単純なものとしてみえてくることで,相手のことがより理解しやすくなるということである。土井(2009)が,“キャラ”によって人格の多面性を単純化し,そこに明確性と安定性を与えるために,相互に協力してキャラを演じ合っていると指摘しているように,“キャラ”をコミュニケーションの中で用いることによって,複雑な友人関係を単純な“キャラ”同士の関係としてみることが可能になり,わかりやすい人間関係の構築に寄与しているのである。第二のコミュニケーションの円滑化は,友人関係を楽しく行うために“キャラ”を用いることによって,円滑なコミュニケーションが促進されるということである。この点については,北山(2000)も,ある人をその〈キャラクター〉に応じて扱うことが,本人も含めたその場での相互行為を円滑なものにすると述べている。 第三の居場所の獲得は,現在の友人関係において,友人に承認されるためには,グループ内にただいるだけでは不十分であり,自分の役割や立ち位置が必要とされるため,“キャラ”がその居場所を明確にすることを助けていると述べられている。
 さらに,千島・村上(2015)は,“キャラ”があることのデメリットとして,固定観念の形成による人間関係の希薄化・言動の制限・キャラの固定化の3つを挙げている。 第一の固定観念の形成による人間関係の希薄化は,“キャラ”があることによって“キャラ”以外の特徴が無視され,相互理解が進まず,関係の希薄化に繋がることが危惧されるということである。第二の言動の制限は,“キャラ”があることで“キャラ”に合わない発言や行動が制限されるということであり,そのために“キャラ”とは異なる自分の人格を隠して友人を付き合わざるを得なくなったり,“キャラ”からはみ出すような成長が阻害されたりといった問題につながると述べられている。第三のキャラの固定化や押しつけでは,キャラ的関係を維持するために“キャラ”の過剰な演じ合いや押しつけが生じたり,一度“キャラ”が固定されるとそこから抜けられなくなるといったことが指摘されている。 これらのことから “キャラ”には,メリットとデメリットの両側面があることが考えられるため,“キャラ”を用いる本人が“キャラ”についてどう認識しているのかについても検討する必要があると考えられる。  


 2-3. “キャラ”の種類

 大学生を対象にした調査では,約半数の者が友人関係において,自分自身の“キャラ”があることを明らかにしている(千島・村上,2015)。しかし,自分の“キャラ”を自覚していない者や,無意識に使っている者もいると考えられるため,実際はもっと多くの大学生が“キャラ”を用いてコミュニケーションをとっている可能性がある。
 また,土井(2009)は,どの集団にも共通するような“キャラ”が存在すると述べている。つまり,小集団内における“キャラ”には,ある程度決まったパターンがあり,そのパターンを明らかにすることによって,友人集団内における“キャラ”の役割についても考えることができるのではないだろうか。
 “キャラ”の種類に関しては,千島・村上(2015)の調査によって,「いじられ」「お笑い」「家族」「へたれ」「癒し」「変人」などの12サブカテゴリが見出されている。加えて,これらのサブカテゴリの上位水準のカテゴリとして,「友人関係における役割」と「当人の性格特性」の2つのキャラカテゴリに分類している。また,この調査では,「自分の“キャラ”はありますか。」というような質問によって“キャラ”の有無を尋ねており,わからないと回答した場合のキャラ不明群を含む3群に分類している。しかし,この自分の“キャラ”がわからないと回答した者についても,自分が所属している実際の友人グループを想起させることで,普段は意識せずにいる自分の“キャラ”について認識できるのではないかと考える。また,この調査では,一般的な“キャラ”について尋ねており,回答者が想定した“キャラ”が自分の具体的な“キャラ”なのか一般的な“キャラ”なのかということは厳密に区別がつかないという問題点があった。その点については,本研究では,実際の友人グループを想起してもらい,グループメンバー全員の“キャラ”を想起してもらうことで,実際に友人グループのなかで用いられている具体的な自分の“キャラ”が示されるのではないかと予想される。  



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