3. 現代の若者の友人関係の特徴
3-1. 大学生の友人関係の在り方と“キャラ”
千島・村上(2016)の研究では,友人関係における“キャラ”を中学生と大学生で比較している。その結果,大学生では中学生に比べて,“キャラ”を受け容れやすく,積極的に“キャラ”行動を行いやすいことが示された。加えて,大学生は,自分の“キャラ”によって,友人関係における自己有用感を高め,居場所感の獲得につなげていることが示唆された。このことから,現代の若者の友人関係に“キャラ”を用いたコミュニケーション・ツールが活用されていること,さらに,その“キャラ”が友人関係に好意的に作用していることが考えられる。
岡田(1995)は,大学生の友人関係の有り様について検討している。その結果,友人関係の有り様を,友人に気を遣いながら関わる項目から成る「気遣い関係群」,深い関わりを避けて互いの領域を侵さないといった内容の「関係回避群」,集団で表面的な面白さを試行する関わり方を示す「群れ関係群」の3つの因子に分類しており,その上で,それぞれ自己概念との関連について議論している。その中で,自分自身の内面への意識を表す私的自己意識や他者の目に映る自分自身についての意識を表す公的自己意識との関連について,とくに表面的に明るい友人関係をとる者は公的自己意識が高いことを示した。その理由として,円滑な友人関係を維持することへの関心が高く,友人からどう見られているかに敏感になるためであると述べている。
この結果に沿って考えると,“キャラ”というコミュニケーション・ツールを用いて,ある意味で自分を押さえながら,表面的に自分を演じることで,友人関係を円滑につなげている可能性があると考えられるのではないだろうか。
岡田(1995)の研究の頃には,おそらく“キャラ”という言葉がまだ存在しておらず,このようなことは明らかにされていなかったが,21世紀になって土井(2009)が指摘しているように,現代の友人関係においては,“キャラ”を用いたコミュニケーションが日常的に行われていると考えられる。本研究では,友人関係を進めていくにあたり,コミュニケーション・ツールとしての“キャラ”が用いられていることを想定して,そのなかでも,自分が演じる特定の“キャラ”を持つ者(それを自覚している場合も,そうでない場合も)にとって友人関係の有り様はどのように特徴づけられるのか,さらに具体的な“キャラ”と友人関係の在り方との関連についても検討する。
3-2. 友人関係満足度と“キャラ”
千島・村上(2015)の調査では,キャラ有群・キャラ無群・キャラ不明群の3群に分類している。調査の結果,“キャラ”がある者(自分の“キャラ”を想定出来る者,“キャラ”に関する自覚がある者)は,“キャラ”がない者(“キャラ”の想定をしていない者,“キャラ”に関する自覚がない者)に比べ,群れ的に友人と付き合う傾向が強く,“キャラ”がわからない者に比べて,友人関係満足度が高いことが示された。“キャラ”を用いたコミュニケーションは,友人関係を単純化し,相手への理解を容易にすることができるため,コミュニケーションが簡単になり,その場しのぎ的に,表面的な楽しさや表面的な関係性を求める群れ的な友人関係をとる者が特に多く用いている可能性がある。また,“キャラ”は友人関係での「役割」の意味を含んでいると考え,“キャラ”を持つ者は,集団内において自分の役割をはっきり感じることができるため,居心地の良さを感じ,友人関係満足度が高くなったと推測している。
一方,友人関係満足度が低かった者については,“キャラ”に対するデメリットを認知していることが考えられ,“キャラ”を演じることのストレスが生じている可能性を示唆している。
また,“キャラ”のカテゴリである「友人関係における役割」キャラと「当人の性格特性」キャラでは,前者の方が友人に気を遣い,“キャラ”があることへのメリットを認知しているということがわかっている。「ボケ」や「ツッコミ」といった“キャラ”は,「友人関係における役割」のキャラカテゴリに含まれるが,これらの“キャラ”は集団内で笑いを取るなど,集団内の雰囲気に気を配っていることが考えられるため,気遣いの得点が高いと推測している。このように,「友人関係における役割」キャラカテゴリと「当人の性格特性」のキャラカテゴリを用いる者には差異があるのではないだろうか。特に,「友人関係における役割」のキャラカテゴリは,当人の元々の性格ではなく,関係に適応させた自分からくる場合が多く,その関係の良好な維持に対してもより気を配っている可能性が考えられる。
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