4. “キャラ”の変化,およびその程度と変化動機


 自己の有り様は,相手によって変わることがある。大学で友だちと一緒にいるときの自己と,自宅で親や家族と過ごしているときの自己,アルバイト先で上司と仕事をしているときの自己が,同じではなく,それぞれ違うということは,一般に十分に経験されていることである。これは関係的自己という概念で,「様々な人と関わりながら生活している中で,他者と一緒にいるときの自己」のことである。このように,近年では,自己は単一不変なものではなく,関係や文脈に応じて多面的かつ可変的であるという考え方が取り入れられてきている(佐久間・武藤,2003)。現代のコミュニケーションにおいては,いつも決まった自分でいることよりも,場面や状況に応じて自分を切り替えることが必要になってくることも多いのではないだろうか。
 佐久間(2002)の行った大学生を対象とした調査では,大学生女子の約9割が関係に応じて自分が変化していると考えていることを明らかにした。また,その切り替えは,意識的に行っている人もいれば,無意識に行っている人もいると考えられる。佐久間・武藤(2003)の調査でも,自己の変化の理由についての自由記述で「意図的に変化させるのではなく,自然に変化する」との回答がみられた。
 この点で,佐久間(2002)が作成した変化理由尺度に「自然に変化する」という観点の「変化・無意識」に関する項目を加えた変化動機尺度を佐久間・武藤(2003)が作成している。この尺度は,「自然・無意識」因子に加えて,関係維持願望や自己理解願望・相手への配慮からなる「関係維持」因子,意識的に演じる・自分をよく見せ嫌いなところを隠すという「演技隠蔽」因子,親密さや心を許している程度を表す「関係の質」因子からなる。この研究では,否定的意識および肯定的意識との関連について検討しており,「関係維持」や「演技隠蔽」因子に関して,自分をよく見せようと演技することは,否定的なことではなく関係を維持するために必要かつ当然のことである可能性について示唆している。ここでは,特に男性について述べられているが,関係に応じて変化するという現代の若者のコミュニケーションを考えてみると,男性だけではなく女性にもこの点は共通している部分があると考えることができるのではないだろうか。
 “キャラ”についても,同様に人間関係に応じて切り替えを行っている可能性が考えられる。  数少ない“キャラ”を用いたコミュニケーションについての先行研究において,“キャラ”の変化や切り替えについては検討されていない。そこで,本研究では,“キャラ”を用いたコミュニケーションと友人関係や友人関係満足度との関連に,“キャラ”の切り替えという概念を加えて検討したい。



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