5. 状況に応じた“キャラ”の切り替えとセルフ・モニタリング
さらに,クラスや部活という固定された人間関係が中心となっていた中高生とは異なり,大学生になると,自分が所属する社会集団が複数になり,多様な人間関係を作っている。それぞれで関係を維持することが求められるため,その社会集団に応じて,適応的に“キャラ”を切り替えていることが考えられる。
同じ人間のなかで“キャラ”を変更することについて,大谷(2007)は,従来「広さ」と「深さ」の2次元として捉えられていた友人関係を,新たに状況に応じた「切替」という概念を加えて整理し捉え直すことを試みており,「広さ」「深さ」「状況に応じた切替」の3次元で捉えることが有意義であるという結果を示している。
また,金子・中谷(2014)は,友人とのジレンマ場面において,自他双方の視点を踏まえつつ,自己を柔軟に調整し変化させることが適切な対処であると考え,ジレンマ場面の適切な解決についての研究を行っている。
自分自身の“キャラ”を可変的に操作することについては,Snyder(1974)の提唱したセルフ・モニタリングの考え方を援用することができる。これは,対人場面において自己の行動を観察し,状況に合わせて統制・コントロールするというパーソナリティ特性である。セルフ・モニタリングによって,対人状況に合わせ,その場に適した自己を提示することにより,自分の印象を操作して,その場の関係をうまく進めていくことができるのである(山田・齊藤,2011)。社会集団に合わせて“キャラ”を切り替えることも良好なコミュニケーションを図る上で役立っている可能性がある。しかし一方で,友人集団のなかでの自分の立ち位置や居場所確保のために意に反する“キャラ”を演じている可能性があり,また,相手の“キャラ”に合わせて自分の“キャラ”を後から決めていることもあるのではないだろうか。“キャラ”を演じる目的は,総じて良い関係性を維持することであると推測されるが,単に関係崩壊を回避するためという場合もあるかもしれない。
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