6. “キャラ”と自己概念との関連について
北山(2000)は,〈キャラクター〉化は自己に対しても他者に対しても行われるとした上で,『私たちはしばしば,なるべく「他者」から好意を持ってもらえるような,あるいは「私」の目から見て好ましいような〈キャラクター〉の持ち主として「自己」を演出しようとするし,「他者」のことも「変わった人だ」「優しくていい人だ」「イヤな奴だ」などと〈キャラクター〉化する』と述べている。このことを心理学の観点で考えてみると,“キャラ”を用いることは,対人場面において他者に与える印象を操作しようとする傾向を意味する自己呈示の一つであると考えることができるのではないだろうか。
この自己呈示について考えるにあたって重要な基礎概念となるのが公的自己意識である。公的自己意識とは,自己の外的・対人的側面に注意を向けやすい傾向のことである。
菅原(1986)は,賞賛されたい欲求と拒否されたくない欲求を2つの独立した欲求として扱い,この2つの欲求と公的自己意識の関連について述べている。ここでは,賞賛されたい欲求は“おしゃれ”や“おしゃべり”といった積極的で自己顕示的な当人のイメージに結びつくのに対し,拒否されたくない欲求は“人の良い”や“気が弱い”などの消極的で善良なイメージと結びついており,対人的な自己イメージ構造を規定していることが示唆された。さらに,どちらの欲求をもつ者も,公的自己意識との関連が強く,集団の中に自分の居場所や役割を得ることが目的となっていることが考察されている。加えて,2つの欲求を同一人物が行うと考えた場合,その時々の状況や対する相手との関係によって2つの自己呈示の方向性を使い分けているとの可能性を示している。ある場面では自己の存在を主張し,別な場面では目立たず同調的にふるまう,といったような具合である。
コミュニケーション・ツールとして“キャラ”を用いる場合について考えてみると,菅原(1986)が述べた欲求や自己呈示的な行動の中に“キャラ”という概念の関連を予測することができるのではないだろうか。“キャラ”を自己のイメージを規定する要因の1つとすると,友人からどう見られているかを気にするといった公的自己意識と関連していると考えられる。また,“キャラ”をその場の集団や状況に応じて切り替えていることが大いにあり得ることや,集団内での居場所の獲得は“キャラ”を用いることのメリットの一つであることから,“キャラ”についての検討は,自己概念を考えるにあたっても意味のあるものだといえるだろう。
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