1.はじめに
私たちは日々,対人関係を築きながら生活を行っている。対人関係の中でも,親との関わりは大きなものとなっているだろう。その親との関係の中において,「期待」が生じることがある。松本・渡辺(1983)によると,親を含めた他者から自分に向けられる期待は個人の成長に対して促進的な機能を持つとされている。そのため,期待は肯定的な面が目立つことが多いだろう。しかし,河村(2003)は親からの期待は親自身の価値観を子どもに押し付けることであると示している。このことから,親からの期待は肯定的にも否定的にも捉えられ,期待の認知には2面性があると考えられる。
期待が自己に与える影響に関して,河村(2003)が親からの期待の認知が大学生の完全主義傾向に影響を与えていることを明らかにしている。そして,春日・宇都宮・サトウ(2014)でも親の期待の認知と自己抑制型行動特性と生活満足感の関連について検討が行われており,良い子であってほしいと願う「よい子期待」や「進路期待」,「人間性」の親の期待の3つすべてを高く認知している大学生とその他の大学生との違いに関して述べた。春日他(2014)では,3つすべてを認知している大学生のほうがその他の大学生よりも負担を感じる割合は高くなるが,期待に対しての肯定的な反応を示すとされている。このように,親からの期待はただ自分に対して向けられることで影響があるのではなく,期待を受けている内容などによっても本人の自己の一面への影響が変化することが予想できる。
また,親の期待の認知に関しては,内容だけではなく期待を自己に対して向けてくる親自身との関係も関連すると考えられる。遠山(1999)では子ども自身が,両親と子どもの関係性によって両親からの期待に応えようと思うかが変化することが示されている。そのため,期待について取り扱うためには期待の内容だけではなく遠山(1999)のように自分と相手との関係性の深さについても検討し,期待に対してどう対処すべきであるかの判断を行う必要があるだろう。自己との関係の深さを検討する際,自己に対して影響を強く与える対象として家族がある。家族との関係性が自己に対して影響を持つことは佐々木(1994)が家族との接触の程度が肯定的な性格を形成することに関して述べていることや,森下・三原(2013)が父親や母親への愛着が対人関係に関して影響を持つことを述べていることからも分かるだろう。このように,家族との関係性に関する数多くの研究においても家族と自己との関係性の影響については明らかにされている。そして,そのような研究の中において自己に対して影響を及ぼしやすい家族として考えられているのは自分を育ててくれた両親などの保護者である。実際,家族関係に関しての研究の中で両親が子どもに与える影響について述べている研究者は多く存在する。このことからも保護者との関係性が子どもの内面に影響を持つことが多く,その影響で期待の認知等にも変化があるのではないかと考える。
以上のことを踏まえ,本研究において保護者と自己との認識の中において期待として扱われるような内容が自己に対してどのような影響を持っているのかを検討する。自己への影響要因として,保護者との関わりを考慮し,保護者が自己に対しどのような養育を行っているのかの認知との関わりについても検討を行う。
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