3.well-being
3-1. well-beingとは
ウェルビーイングは,字義的には“良好な状態/存在であること”を示す用語であり,世界保健機関(WHO)の憲章前文で健康定義に使われていることでもよく知られ(鈴木・木野,2015),well-beingにはSubjective Well-beingとPsychological Well-beingのような,様々な概念が提唱されている。well-being概念の1つにSWB(Subjective Well-being)がある。伊藤・相良・池田・川浦(2003)によると,Subjective Well-beingは主観的幸福感あるいは主観的健康感と訳されるが,感情状態を含み,家族・仕事など特定の領域に対する満足や人生全般に対する満足を含む広範な概念であり(Diener,Suh,Lucas,& Smith,1999),ある程度の時間的安定性と状況に対する一貫性を持つと考えられる。なお,SWBと近似した概念としてPsychological Well-beingがあるが,多くの研究ではほぼ同義として扱われている(伊藤他,2003)。主観的well-beingと心理的well-beingがほぼ同義であるということから,本研究では,主観的幸福感と心理的well-beingを同義として扱う。
3-2. 主観的幸福感
主観的幸福感について,徳永・松下(2010)は,心理学の分野では,幸福感はあまりにもとらえ難く曖昧で,科学的研究の対象になりえないとされてきたが,その後,主観的幸福感の実証的研究が開始されたと述べている。寺崎・綱島・西村(1999)は,主観的幸福感の構造について,認知的側面と感情的側面から構成されており,認知的側面には「人生に対する満足感」,感情的側面には「肯定的感情の存在」と「否定的感情の不在」があるとした。主観的幸福感はこれまで様々な研究者によって測られてきたが,決められた尺度はなく,研究者によってそれを測るための尺度は様々に使われてきた。そこで主観的幸福感を測る尺度として作られたのが,伊藤他(2003)が作成した主観的幸福感尺度である。主観的に見てどのくらい幸福かを測るものが主観的幸福感尺度であるが,本研究では,この尺度で測定した主観的幸福感がwell-beingを表すものとする。
本研究において,主権的幸福感尺度を使用しているにも関わらず,題目等でwell-beingという言葉を用いている筆者の考えは以下のものである。
心理的well-beingという概念について,主観的well-beingとほぼ同義だとすると,言葉そのものの意味として,心理的well-beingは心理的幸福感や心理的健康という意味合いを持つことになる。使用する尺度は主観的幸福感尺度にはなるが,図りたい内容としては,「幸福感」だけでなく「健康」の意味も含めた良好な状態,つまりwell-beingであるため,題目にも“well-being”として,記載した。
3-3. 心理的居場所感尺度と主観的幸福感
本研究では,居場所感とwell-beingの関連について研究を進めていく。則定(2007)の尺度の作成にあたり,妥当性の検討の中で,居場所感と主観的幸福感の関連も検討されている。則定(2007)の青年版心理的居場所感尺度で抽出された下位尺度について,併存的妥当性の検討がされており,その際に主観的幸福感を含めたその他の尺度と,心理的居場所感の各下位尺度得点との全ての間に有意な正の相関が認められた。つまり,心理的居場所感と主観的幸福感には関連があることが示され,本研究でも結果が得られることが期待される。居場所について,家族や学校場面に注目した研究は多くあり,石本(2010)の研究のように,小中学生を対象とするものが多く,学校現場での居場所感による適応の差を検討するもの等がある。則定(2007)では,重要な他者として母親・父親・親友の三者について別々に回答を求めており,取り上げた友人関係は親友との個別の関係のみである。そこで,本研究では,「大学生の友人関係」という部分に着目し,一対一で付き合いのある個人友人だけでなく,複数人で付き合いのある友人集団という2つの関係に着目し,心理的居場所感と主観的幸福感との関連を研究していく。
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