3.友人関係
4-1. 友人グループ
筆者は本研究において,他者と関わる居場所,その中でも友人関係に着目したい。友人関係と居場所についての研究は,石本・西中(2016)が友人関係の親密性に着目し,友人関係スタイルによって居場所欠乏感に差があるのかを検討した研究などがある。友人関係についての研究は様々にされてきているが,友人関係スタイルについて,筆者が親密性以外に着目したい部分として,友人グループがある。須藤(2014)は,思春期から青年期にかけての友人関係を考える際,一対一の友人関係だけではなく,友人グループの存在が関わってくると述べており,発達に伴って友人関係の在り方も異なると考えられる。須藤(2014)は,友人関係の中でもグループに着目した。友人関係の中でもグループを扱った研究はあまりされておらず,大学生を対象としたものはさらに少ない。友人関係について,Sullivan(1953)は,就学後の子ども時代を児童期,8歳半ないし9歳から11歳半までの年齢の思春期到来直前の時期を前青春期と呼んだ。この時期には親の支配から離れた児童期よりさらに,親をはじめとする家族以外の人との親密な関係を求める強い欲求が現れ,チャム(cham)という,同性友人との親友関係を結ぶようになる。この関係において,「相手の満足と安全とが自分にとって自分自身の満足と安全と同等の重要性を持つ」ようになり,友人への愛の能力が一気に発達するものとしている。
また,友人関係について,須藤(2012)は,前青年期以降の友人関係の体験について振り返り,「よかったこと」と「難しかったこと」について回答させた。その結果,友人グループの「良かったこと」の項に様々なカテゴリーに分類されるコメントがみられたが,そのカテゴリーの中には「心の支え」というものもみられた。この研究は女子大学生を対象としているが,男子大学生も含めて,友人グループの存在が「心の支え」となりうる重要な存在であるのではないかと予想できる。そこで,本研究では,友人関係の中で,一対一で関わりのある友人だけでなく,複数人で構成された友人集団も含めた友人関係についての調査を行うこととする。
4-2. 友人の人数
友人グループに関わって,友人関係や友人グループには2〜3人の少人数のものから,6人や10人以上等の大人数のものまで様々なパターンがあると言える。黒川(2004)は,小学校高学年を対象に友人集団の人数を質問した上で,友人集団満足度を測定した。男女差や,集団サイズ(2〜4人と5〜11人)の差の検討で2要因分散分析を行ったが,有意な差は見られなかった。別の,友人の人数についての研究として,鈴木・藤生(1999)は,女子大学生の友人数と自己効力についての研究をしている。調査は4月と10月の2回実施し,友人関係については,4月に過去の友人関係,10月に10月現在の友人関係についての回答を求めた。その結果,10月の友達の人数が大学満足度と自己効力との相関を示した。このことは,大学での友人関係が影響していると言え,友人の人数が多いほど,大学満足度・自己効力も高まるというポジティブな影響があると考えられる。
黒川(2004)の研究では,人数の差は,満足度に差がなかったということになるが,あくまで小学生を対象としたものである。大学生だと結果は異なるのか,検討の余地があると思われる。また,女子大学生を対象とした鈴木・藤生(1999)より,大学生の友人関係において,友人集団のような複数人での友人関係はポジティブな影響を及ぼし,さらに,その友人集団の人数が多いほどより影響も大きくなるのではないかと考えた。
4-3. 友人との関係
友人との関係は,様々な場で形成される。小学生・中学生・高校生などでは,学級や部活動などが主な繋がりではないだろうか。大学生になると人間関係の幅が広がり,友人との関係形成の場も増えていくだろう。大学での学部・学科・コース等の繋がりや部活動・サークル等の繋がりに加え,アルバイト等,様々な場面が想定される。
岡田(2009)は,部活動に着目し,中学生の部活動参加が学校への心理的適応等に与える影響を検討した。岡田(2009)は,部活動に参加している生徒はクラスにおいても周囲との良好な関係を築きやすいと考えており,部活動に参加している生徒は他学年の生徒との関係が強く,また重要なものになりやすい可能性があるとしている。また,部活動に積極的に参加している生徒は学校生活の様々な側面においても良好な状態にあるとも述べている。この研究において,部活動という場面において友人関係は自然と形成されやすい可能性を示唆しており,反対に,部活動に所属していない生徒は友人獲得の機会が少ないと考えられている。部活動に所属していない生徒にとっては友人の存在が他の生徒よりも心理社会的適応に重要であるとしている。これらのことを踏まえると,同じ目的や目標に向かって取り組む部活動での友人関係の形成よりも,学級等の集団内での友人関係の形成の方が難しいといえるのではないか。このことを大学生に当てはめると,部活動やサークルのような趣味や趣向が似た人間の集まる場より,学部等の幅広い関係の場での友人関係の形成の方が難しいのではないだろうか。石本・西中(2016)で,同調性や心理的距離に着目しているように,それぞれの友人関係においての親密性,安心してありのままでいられる関係かどうか,という心理的居場所感の高低に着目すると,大学生も部活動やサークルでの関係の方が心理的居場所感は高く感じやすいのではないかと予想する。反対に,学部等での友人関係において心理的居場所感を高く感じにくいとすると,それが高く感じられた時の主観的幸福感は部活動やサークルでの友人関係の時と比べて,高まるのではないかと予想した。
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