2.心理的居場所感


2-3. これまでの居場所概念・居場所研究

 これまでに「居場所」というものの概念は様々に定義づけされてきた。

 中島・倉田(2004)は,居場所を「自分の存在が確認できる場」とし,「居場所」は単なる空間を意味するものではなく,心理的な側面を含んだものであるとしている。宮下・石川(2005)は,居場所を自己の存在感を実感でき,精神的に安定していることができ,ありのままの自分を受け入れてくれ,かけがえのない自分の評価を大事にしてくれる場所と述べている。これは,「居場所」が物理的空間だけでなく,自分と他者の存在との関係が重要になる空間を含んでいるという考えを踏まえた定義づけである。秦(2000)は,居場所を“安心感,受容感を感じることで本来の自己を表すことができ,自分の役割を認識することで自己の存在を確認することのできる場”と捉えている。また,“物理的な場所とそこに個人の安心した心理状態の両方を含んだものでありなおかつ,そこでは他者とのつながりが存在している”とも捉えており,この居場所があるという感覚を“居場所感”と呼んで,“居場所感尺度”を作成している。則定(2008)は,物理的居場所と区別された心理的居場所を「こころの拠り所となる関係性,および,安心感があり,ありのままの自分が受容される場」と定義しており,心理的居場所があるという感情を「心理的居場所感」と定義している。

 杉本・庄司(2006)は,小・中・高校生を対象とし,「居場所」の心理的機能とその発達的変化について検討している。ここでの居場所の定義を“いつも生活している中で,特にいたいと感じる場所”とし,6つの心理的機能の下位因子で構成される“居場所の心理的機能を測定する尺度”を作成した。居場所の心理的機能として挙げられたのは,その場所に自分を受け入れてくれる他者がいることを表す「被受容感」,無理をしないで本当の自分でいられる状態,それによって引き起こされる良い精神状態を表していると考えられる「精神的安定」,自分の好きに,自由に行動できることを表す「行動の自由」,考える,思考するということを表している「思考・内省」,その場所で自分に自信が持てることを表している「自己肯定感」,他人を気にせずいられることを表す「他者からの自由」の6因子である。  

 則定(2007)は,“青年版心理的居場所感尺度”を作成し,重要な他者として特定した,母親・父親・親友の三者について,それぞれ同一の項目で回答を求めた。その検討により「本来感」,「役割感」,「被受容感」,「安心感」の4つの因子が抽出された。  

 青年期の居場所感が心理的適応や学校適応に与える影響について検討した石本(2010)は,教育臨床や心理臨床の視点から居場所について検討している。心理臨床領域においては,「安心して居られるところ」といった意味の他に,「ありのままの自分で居られる場所」といった意味で用いられていることが確認され(中藤,2013)ており,石本(2010)は,心理臨床においても,居場所とはありのままで受け入れられることであると定義するものが多いと述べている。これらの様々な先行研究を踏まえ,石本(2010)は,教育臨床や心理臨床の領域では,他者との関係に対する意味づけにおいて,個人が「ありのままでいられる」ことと「役に立っていると思える」ことを居場所の心理的条件とし,居場所感尺度を作成した。  

 このように,様々な研究がされ,「居場所」は多くの研究者に注目されている。様々な場面に着目されているが,筆者は居場所の中でも,他者との関わりのある場面での居場所感に着目したい。また,小・中学生を対象とした研究も多くあるが,今回は筆者自身と同じ大学生を対象として研究したいと考えた。



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